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海岸通り
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砂を被ったラジオから、FMの掠れた声が僅かに聞こえる。陽気なラジオの声
と波音だけが浜辺に響いて、そして夜の海へと吸い込まれて消えていく。
夜の真っ暗な波音だけの海ってやつは、少しばっかり怖さとかもあるけどなん
かこう、しみじみとしてくる。
昼間の騒がしい浜辺とは一変して、ただ静かに波の音だけが繰り返していて、た
まに海に懐中電灯の光を向けると、黒くうねる波間に光の筋が吸い込まれていっ
て、昼間はあれだけ愛おしかった白い波が化物のように重々しい雰囲気をばらま
きながら、蠢いている。
今日は、真哉のドライブにつきあってこうやって海までやってきた。俺は久し
ぶりの海だから、少し波と戯れようかと思ってサーフボード持参で。
そんでもって俺は一日中、綺麗なお姉ちゃんの群れを眺めたりしながら、烏帽子
岩に背を向けて、江ノ島を横目に波乗り。
真哉は騒がしいのが嫌だから、とか日焼けするのが嫌だからって一日中、クーラ
ー効かせた赤いスポーツカーの中でカーステレオで音楽聴きながら寝てやがった。
俺は浜に上がるたびに海の家で、飲み物や焼きそばなんかを買って、差し入れ
しつつご機嫌伺い。アイツにヘソ曲げられて置いてかれちまったら、家に帰れな
いからな。
俺は車を覗くたびに、そろそろ帰るか? と声をかけても真哉は、いや、いい。
このままで、を繰り返すばかりだった。日がな一日、車ん中でシート倒して音楽
聴いてるだけがそんなに楽しいかね。
暇もてあましてんなら水族館にでも行って来いよ、あそこなら涼しいしクーラ
ー無駄にかける必要もねーんじゃねーの? と言ってやると真哉は、眉間に皺寄
せて相変わらず、黙ってろ、とか言って車から出ようともしないし、結局いまの
いままで海で過ごしていた。まったく、低気圧みたいなヤツだぜ、真哉は。
夜も更けてきて、さすがに海で遊ぶお客もいなくなった頃、俺は砂の上に仰向け
になって空を見上げていた。
こんなにも星が綺麗に見えるもんなんだな、とか真哉とつきあい始めてからもう
どれぐらいが経ったかな、とかどうでもいいことを考えながらただぼんやりと。
ときたま俺の頭のずっと後ろのほうで、何組みかのバイクの音が聞こえ、俺は
そのたびに若いだけで何でもできた頃が、少しだけうらやましくなった。若けれ
ば若いほど、感情が素直に表せる気がする。
俺が寝っ転がった頭の辺りに転がしておいたラジオが掠れ掠れに騒いでいる。
地元のFM局が独自にピックアップしたような、どこかレトロでノスタルジック
なギターの音が夜の波音によく合って、なんか癒されるような感じがした。
ラジオから流れるギターに合わせて口笛を吹いていると、足音もたてずに真哉が
近づいてきて、俺の顔を覗き込むとそのまま顔めがけて虫除けスプレーを吹きか
けてきた。
「クソ。いきなり何しやがんだよ、ったく」
俺が怒鳴ったところで真哉に何かの影響を与えられるわけもなく真哉は澄まし
た顔をして、
「そんなところで寝てると、虫に刺されるぞ」
そう言って俺の周りで虫除けスプレーをシューシュー吹き回した。
「テメエ、いったい何がしてーんだよ。わざわざ湘南くんだりまで連れてきて、
かと思えばアンタは独りで車に籠もったまま、こんな時間まで」
上体を起こしながら真哉に喚いてやると、真哉は相変わらずの仏頂面で俺を見
つめ、
「たまには何にも考えないでリセットするのも必要じゃないか、そう思ってな」
と呟いた。
俺は正直言って真哉の考えていることは十パーセントもわかっていない。
真哉はその日の気分で物事を決めるし、自分の考えを表に出すこともない。それ
に真哉の発想はいつも唐突過ぎて、どうリアクションすればいいかも、とまどっ
ちまう。
「ただこうやって何もしないことに、実は価値がある。決められた時間を細かく
区切って使うよりも、決められた時間をただ無意味に消費する、そうやって普段
使い続けていた部分をオフにしてやる。大切なことだ」
真哉はそう言って、俺の肩に手を置き俺を引っ張り上げるようにして立ち上が
らせると、海水と砂でバサバサになった俺の髪を拭いながら、俺の頬にピッタリ
と額をつけて小さな声で、
「お前の髪は、俺の知っている中では一番綺麗だと思う。折角の綺麗な髪だ、水
で洗ってやるぐらいはしてやれよ」
突然そんなことを言われるなんて、思ってもいなかった。何だか照れる、って
いうより真哉がそんなことを言うと恥ずかしい気分になってくる。
俺はこんなときどう答えればいいんだ? 戯けて応えればいいのか、それとも真
面目に受け応えればいいのか。
なあ、どうすればいいかな?
俺はそんなことを思いながら、真哉の黒いタンクトップの肩に手を当てて、
「アンタに、褒めてもらえる場所がひとつでもあって、良かったよ」
俺がとりあえず口から出た言葉を繋いでみると、案外いい答えになったんじゃ
ないか、なんて思ってみたり。
真哉は俺の髪を拭いながら、髪を掻き上げ俺の耳を出すと耳許に口をつけて、
「髪以外にだって、お前には褒める部分はあるよ、それでもお前の紅い髪は、特
別だ」
真哉はそう囁いて、俺の唇を奪うと下唇を甘く噛んでから舌を入れてきた。
真哉の舌は薄荷の味がしてひんやりとした感触がして熱っぽくなっていた俺の口
をクールダウンしてくれるような感じがした。
クールダウンといってもこれから、今まで以上に体は熱くなるだろうから、嵐の
前の静けさかも知れねえな。
真哉は俺のバックにまわると、肩越しでキスを交わしながら俺のサーフパンツ
を降ろしていった。
サーフパンツは太腿を滑り膝まで降ろされると、そのまま力無く地面へと落ちて
いく。
「足、開けよ」
真哉に言われ、俺は肩幅ぐらいに脚を開き腰を少し落とすと、真哉は俺の腰に
手を当てて俺の尻の辺りに下半身を押しつけてきた。
「なあ、立ったまますんのかよ?」
「そうすれば、汚れんだろ?」
「立ちのままじゃ、ちっときつくねえか?」
「心配するな、まあどうにかなるだろう」
真哉はそう言って、いつもよりも少し時間をかけて俺の中に入ってきた。少し
つらい感じもしなくもないが、別に痛いわけでもないし、まあ要するに入っちま
えばいいわけだからな。
「串刺しじゃねえか」
俺がそう言うと真哉は小さな声で笑って、
「動かすぞ」
と言って腰を動かし始めた。
バックからやったって、立ちで後ろをやる場合はパンパン景気のいい音はしない
けど、突き上げ感は強い気がする。なんかこう、腰骨とか背骨によく響く感じだ。
真哉は右手を俺の肩に、左手を俺の腰に手を当てて上下に激しく動き始めてい
た。
俺はその動きに合わせて腰をずらし、その動きに合わせて呼吸を速めていった。
鼓動も呼吸もどんどん速まっていき、俺は額や首筋から汗を流し始め、真哉の激
しい動きを受け入れていった。
真哉は俺の耳の後ろの匂いを嗅ぐようにしながら、耳を甘噛みしたり首筋に舌
を這わしたりしながら、
「声、出して感じたほうがいいんじゃないのか」
と囁いてきた。
そう言えば俺はいつもほどは声を出していない。外でやってるせいもあってセー
ブしてたのかもしれないし、声を出すことを忘れていたのかもしれない。俺は真
哉に言われたからってわけじゃないが、肩の力を緩めるようにして動きに合わせ
て声を出し始めた。
真哉は俺の声を聞きながら、腰に当てた手をそのまま腰に回し強く俺を抱きし
めるようにしながら俺を突き上げていった。
「中に出すなよ、中に出すなよ…」
俺がそう呟いていると背後で真哉が、
「愛してる…」
と小さく呟いていた。
そうやってしばらく俺達は別々な方面の言葉を呟きながら腰を動かし、俺も自然
と自分のモノを掴みそれを握り締めるようにして愛撫を始めていた。
そして、少し早めに俺がイこうとした瞬間、真哉が小さく喘いで俺から腰を引き
離し、俺の腰に真哉が放った熱っぽい体液が貼りついた。
俺達は行為を終えるとお互いに疲れ切ったように溜息を漏らし、
「水でも浴びるか」
とどちらともなく呟き、熱く火照った体をクールダウンするために。汚れた体
を洗い流すために、なんか無邪気なガキのカップルみたいに手を繋いで、真っ暗
な海に体を沈めていた。
手を繋いだまま水面に背中で浮かぶと、銀色の月明かりが海面を照らし、その
月の上を黒い夜の雲が幾度も通り過ぎていった。
その間、俺達は色恋なんて語らずに、小さかった頃の話しや暑い真夏の昼下が
りに飲んだ冷たいコーラの話し、風になびく緑色の草や風。そんな断片的な夏の
想い出の瞬間を語り合っていた。
これは男の習性なのかよくわからねえけど、こんなときに口をついて出るのは
ガキの頃の話しばかりだ。
どこで遊んだ、どんな奴がいた、何がキラキラ輝いていたか、センチとノスタル
ジックの中間に俺達は生きているんじゃないか、ってそう思うときがあるんだよ。
別に昔が懐かしいってわけじゃないんだけど、自然とこういうときに思い出すの
はガキの頃の光景だ。
いつまでも、しみじみしてんじぇねえよ、俺達。そんな感じだ。
ずっと空を見上げていると、空の星の光が弱くなっていくのを感じる。空が青
く群青色に変わっていくからだ。
「もうすぐ、朝が来るんだな」
「ああ」
真哉が俺の呟きに応えてくれた。
もうすぐ夜が明ける、それでも聞こえる音は波の音だけだ。俺がそんな波音に耳
を傾けていると、真哉は水面にゆっくり身を起こし、俺の肩を揺さぶって、
「和征、起きてみろ」
そう俺に囁いた。
俺は真哉に言われたように水面に身を起こし、真哉が向いている水平線の方に目
をやると、水平線がはっきりとした一本の線に見え、海の果てが茜色に輝いてい
た。
群青色と、白色と、茜色。朝が海に落ちたような、そんな朝だ。
真哉は俺を抱き寄せると何度か鳥のついばみのようなキスをして、俺を抱いた
ままこう言った。
「夜明けの海を見せたくてな」
「いい趣味してるよ、アンタは」
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Fin.
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