ロングナイト


 久し振りに、同じ高校に通っていた杵澤由香里と再会したら、彼女は今モデル
をやっているらしい。
卒業して何年も会ってなかったから、お互いに何をやっているかなんてわからな
かったけど、あたしは広告代理店でデザイナーをやっていて由香里は君島ユカリ
という名前でファッションモデルをしている。
由香里は海外のファッションショウに出たりすることも多く、ヴォーグに載った
こともあるらしい。
高校時代は英語なんて単位を取るために勉強している程度だと思ったのに、今で
は普通に会話ができるようになっていた。
 由香里と再会した場所は西麻布のシャンデルっていうワインバーで、ヨーロッ
パのメジャーどころの料理が食べられると由香里が薦めてくれた場所だった。
由香里は麻布のマンションに住んでいて、最初はあたしが仕事でもよく足を運ぶ
六本木ならわかりやすい店が多いから六本木あたりで会おうということだったん
だけど、あたしはロアビルとかそんなあたりの店しか知らなくてせっかくだから
ありきたりな場所は嫌だから、と由香里のお薦めにすることになった。
 由香里のお薦め通り色々な料理が楽しめる上に、ワインも美味しく飲むことが
できて良かった。
あたしが店を選んだら、ホットペッパーに載ってるようなところになってしまう
から。
 由香里は、マンションが狸穴にあるから泊まっていけば、と誘ってくれたんだ
けどちょうど翌日は朝から大きなミーティングに参加しなければいけないという
こともあって断ってしまったんだけど、一週間経って、今度の週末に泊まりに来
なよ、と由香里から誘いがあった。
彼女は月末からベルリンにショウのためにそこそこ長く滞在することになってい
て、日本を出る前にゆっくり話をしたいから、ということでの誘いだった。
 ただ、金曜は映画関係の仕事でビル看板のジャックをするとか色々大がかりな
プロジェクトの打合せが遅くまで続くことがわかってたから本当はリスケしたか
ったんだけど、由香里が日本を出るのは数日後ってこともあって、夜中に行って
も良ければ、という約束になった。
あたしの読み通り、変な個室飲み屋みたいなところで十一時ぐらいまで延々と続
いて結局、由香里に会うことができたのは日付を跨いですぐだった。
とりあえず六本木でコーヒーを飲んで、そしてタクシーで彼女のマンションに向
かった。
 狸穴の由香里の住んでいるマンションは築年数はそれなりだろうけど綺麗な造
りで住み心地は良さそうだった。
彼女の部屋は十二階建ての十階にあって、案内された部屋はとても素晴らしいデ
ザインだった。
それほど広くはない部屋だけど、室内のインテリアや内装がすべて白と黒の二色
で統一されていて、キューブ型のインテリアは黒や白の光沢のあるパネルや天板
が付いたもので部屋全体が無機質だった。
そんな中で背が高くスタイルの良い由香里はまさにモデルだったし、そういった
部屋にピッタリな女だと思った。
 由香里は市松模様の真四角なソファにあたしを腰掛けさせると、黒い長方形の
ガラステーブルにハイネケンビールを缶のまま二つ並べペリエのビンも一本用意
された。
由香里は、私は家で過ごすときはいつも下着なの、と言ってシャツやスカートを
脱いでしまうとその下からは黒いボディストッキングに覆われた体が現れて本当
にスタイルが良いことが強調された。
ウェストのくびれの反面で胸はとても大きく、足は想像以上に長かった。
ストッキングの股間部分はくり抜かれたデザインになっていて、綺麗に剃られた
性器があらわになり、あたしは目のやり場に困ってしまった。
 由香里はあたしの目を気にすることもなくソファに座ると、大きく股を開きく
つろいだ様子でハイネケンに手を伸ばし、ビールは嫌だった? と聞いてくるの
で、そんなことないよ、と答えながらあたしもビールに手を伸ばすと、こうやっ
てよく冷えたビールの缶をここに押し当てると気持ちがいいのよ、と缶の側面を
性器に押し当てて、夏はここが蒸れるでしょ? 常に通気を良くしててもすっき
りしないのよね、と笑い本気なんだかからかっているのかわからない。
 ビールに口を付け始めると由香里はテーブルに置かれていた長いキセルを手に
取り、短く切った紙巻き煙草を立てるとライターで火を着け紅く塗られた唇に咥
え一気に吸い込むと、ふぅーっと煙を吹くようにして吐き出し、忙しかったのに
ごめんね。なんか、親しい友達とどうしても一緒にいたくなって…日本を離れる
前にホームシックの予備練習ってわけじゃないけど、と笑いあたしにもっとビー
ルが飲みたいかとかサラミやハムが食べたいかなど聞いてきたけど、個室飲み屋
みたいなところでさんざんアルコールも脂っこいものも口にしたから、特に欲し
いとは思わなかった。
 由香里は性格がきつそうな顔をしている反面細かいことに気が向くタイプで、
何かと世話を焼きたがるところは変わっていなかった。
彼女は缶ビールとキセルを交互に口に運びながらとりとめのない話を続けていた
けど、ふと立ち上がり部屋の角に置かれていたマガジンラックを漁りいくつかの
雑誌を抱えるとそれを持ってきてテーブルに並べた。
それはMARQUISという海外のフェティッシュ・ファッション誌で、鮮やか
な表紙にフェティッシュなコスチュームに身を包んだモデルが写っている。
それはラバーやエナメルといった一部では確固としたマーケットを持つフェティ
ッシュ・ファッションの情報やグラビアに特化したマガジンで、由香里がそうい
ったものを好むのは仕事柄や部屋の趣味からいっても不思議ではなかった。
 由香里は、私はこういうのが好きなんだけど莉沙は嫌い? デザイナーだから
こういうのに興味はあるでしょう? と聞いてくるので、どういうものか知って
るし、嫌いじゃないよ、と答えると由香里は嬉しそうに頷いてソファに座り乗り
出すようにして、私はね大好き。今度ドイツに行くでしょ、だから色々現地で買
ってくるのよ。私、この黒とか赤の光沢が堪らなく好きなの、こんな皮膜ひとつ
で人間が無機質で形容しがたいものに生まれ変わるのよ、と言ってページを開い
て見せながら、莉沙はこういうファッションをすることは何とも思わない? と
聞いてくるので、スタイルが悪くなければちょっと恥ずかしいぐらいだよね、と
答えると彼女は、少しくらい肉付きが良い方が魅力的に見えるのよ。痩せぎす女
よりもラバーの張りが綺麗だし、だって海外のこういうモデルって引き締まって
はいるけど体つきは健康的でしょう? 私と一緒にステージに立つ欧米のモデル
だって、やっぱり痩せぎすばっかりじゃないもの、と言ってあるページを指さす
とそこには黒と赤のラバーウェアを身に着けハードなギアを装着した体格の良い
女が写っていて、私はこれぐらいハードなのが好きなの。でも、日本じゃこうい
うのって理解されにくいのよね、と言ってわざわざあたしのすぐ横にピッタリと
密着するように座りあたしの膝を撫でながら、雑誌のページをめくり色々と解説
を始めた。
 由香里は熱心に説明をしながらだんだん息遣いが荒くなってきて、ひどく興奮
しているようだった。
由香里はあたしの手を掴むとそれをおもむろに自分の露出した股間に持って行き
あたしの手を自分の性器に触れさせると、熱っぽくそして濡れていた。
あたしの手で性器をゆっくり愛撫するようにしながら、ほら、私のヴァギナ濡れ
てるでしょ? こうやってラバーについて話をしてるだけで興奮してくるの。ピ
ッタリのスーツで体を締め付けて、マスクで顔を覆ってそして犯されることを想
像するのよ、と言って熱っぽい息をあたしに吹きかけ虚ろな目であたしに何かを
訴えていた。
 あたしは、由香里…なんか興奮しすぎだから、と手を引き戻すと彼女は、たい
したことじゃないわ、こんなことよくあることよ、と言ってあたしの手の甲をペ
ロリと舐めそしてあたしの頬、首筋を舐めると小さく笑って、レスビアンのモデ
ルってけっこう多いのよ。それ以上に多いのがバイセクシャル。私はドラッグは
やらないの、そのかわりこういうことをして愉しむの、と急にあたしの唇に自分
の唇を重ね生暖かい舌を滑り込ませ、あたしの前歯の歯茎や歯と歯の隙間を舌の
先でなぞると、莉沙の口はザーメン臭そうなビッチな形をしていて、昔から好き
だったのよ。こんな分厚いダッチワイフみたいな唇の口で咥えてもらったら、男
は大喜びでしょう? ねえ、と笑いあたしの目の前ですっと立ち上がると、股間
をあたしの顔に近づけて、今夜は莉沙と愉しみたかったの。私がラバーマニアだ
という正体を晒して、あなたと、ラバーとラバーとラバーに包まれて! 日本人
では莉沙にずっと興味を持ってたのよ。ロシアやイタリアやアメリカのモデルと
はさんざん愉しんだけど、日本人はあなたが初めて、と言って笑い声を響かせる
とクルリと背を向けて、準備するから、見捨てないでね、と呟いた。
 由香里は踊るような足取りで隣の部屋に歩いていく。
あたしは、そういう趣味なのか、と諦めながら、半年ぶりのセックスがよりにも
よってむかしの女友達なんて、ちょっと寂しすぎる、と思ってしまった。
著名なファッションモデルになってしまった彼女にとって、ファッションショウ
で着るコスチューム自体がフェティッシュの塊なもののような気がするけど、そ
れとラバーはどう違うんだろう。単に素材だけの違いで、ああも執着したり興奮
できるのだろうか。
あたしは今まで意外とありきたりなセックスをしてきた人間だから、レズとか経
験どころかどういった具合のものかもよくわからない。高校時代の友達とするな
んて思いもしなかったけど、それが有名なモデルだっていうことに少しばかり救
いはあるのかな?
 黒いアクリル製のドアを開けたままにして隣の部屋で変態の衣装を漁っている
音が聞こえる。
箪笥を引っ張ったりクロゼットを開けたりそんな音が聞こえてくる。ビニール袋
がシャリシャリいう音やゴムがパチンパチンと弾ける音、由香里のおかしな独り
言までが聞こえてくる。
私が今一番セックスしたい相手は誰かわかる? 莉沙、あなたよ。それじゃあ明
日以降にセックスしたい相手はわからないでしょう? レベッカ・ロメインよ。
赤絨毯の上でセックスしたら、十日はセックスしなくてもいいぐらい満足できる
かもね、とわけのわからない独り言が聞こえた。
 しばらく隣の部屋に籠もっていた由香里が、黒い袋をいくつも抱えて戻ってき
た。それも、ラバー・フェティッシュの衣装に着替えた格好で。
彼女は真っ黒で鏡のように光沢のあるボディスーツで全身を包み、その上からボ
ディスーツと同じような黒いゴム製の軍服のようなデザインのものを着込んでい
た。
ボディスーツの胸は大きく膨らみその上を覆う軍服もパンパンに張っている。ウ
ェストには赤いラインの入ったいくつもベルトが突いたコルセットそしている。
とてもきつく締めつけているのか、ただでさえ細い彼女のくびれが余計に細く見
えてしまう。
彼女の全身を包むボディスーツは足の先まで覆っているけど、股間の部分はゴム
の皮膜と皮膜が合わさるように重なっているようだった。
脚は膝から下がゴム製のいくつもベルトが付いたブーツに包まれていて異常なほ
ど急角度で高いヒールになっている。
 由香里はあたしの側に大量の黒いビニール袋を置くと、あたしの目の前で自信
に満ちたポーズをとり、どう? ラバーって素敵でしょ? と言ってあたしの膝
の上に自分の膝を乗せ大きな胸をあたしの顔に押しつけながら、莉紗にピッタリ
のコスチュームをコーディネートしてあげるから。私用にオーダーメイドしたも
のだけどゴムはよく伸びるから莉紗ぐらいの体型なら逆にピッタリのはずよ、と
言ってあたしのおでこをベロンと舐め、その前にメイクした方がよさそうね、と
左眉だけクイッと上げてウィンクをした。
 なにか鼻歌のようなものを口ずさみながら由香里は傍らに置いた黒いディオー
ルのメイクボックスを開き、顔の拭き取りようウェットティッシュを取り出しあ
たしの顔をゴシゴシと拭き始め、あたしの顔中の油や汚れや溶けかかったメイク
を落としてくれた。
そしてあぶらとり紙で綺麗に拭き直すと、いくつかのチューブを取り出しクリー
ムや液体をあたしの顔に塗りたくり、コンパクトを開いてパウダーをはたき、ペ
ンシルや筆ペン状のアイライナーであたしの目の縁にグリグリと線を引っ張った
り色とりどりのパレットを開いて黒っぽい色ばっかりをあたしの目の前に塗った
り、そうやってあたしの目のまわりを延々と彩っていた。
由香里は得意気にあたしの顔を近くで見たり離れて見たりして、うん。すごくい
い。莉紗は顔の造りがいいよ、と頷いて見せた。
 鏡を見せてもらえないからあたしの顔がどうなってるかわからないんだけど、
由香里が褒めてくれるんだからひどくはないだろう。
あたしは、汗とかもろもろで汚れた服に指をかけ、脱いだ方がいいんでしょ? 
と尋ねると、もちろん全部脱いでもらうわ。でも私が脱がせてあげるから、とあ
たしの足下に座り込むと、まずはストッキングを脱がせてくれた。
そして、スカートを脱がすとあたしのことを立たせ、はい。バンザーイ、と両手
を上に上げさせてシャツを脱がせてくれた。
今日は薄着だったから、もう下着しか着ていなくて、それでも由香里は躊躇せず
にショーツもブラもあたしから脱がせていった。
 あっという間にあたしは裸にされ、目の前の美しいスタイルの由香里と並ぶと
自分の体が惨めにしか思えなかった。
由香里はあたしの体をペタペタと触り撫でながら、触った感じがいいわね。健康
的、健康的、と呟きあたしの胸の辺りに五本の長い爪を立てるとゆっくりと円を
描くようにあたしの胸や乳房の辺りをなぞり始めた。
詰めの動きに合わせてあたしの背筋にゾクゾクという感覚が走り、そんなことさ
れたことがなかったから膝がガクガクとしてしまう。
 由香里は何ともいえないような表情をして、目を細めるような笑みを浮かべな
がら、乳首がだんだん勃ってくるのがわかるでしょう? もっと快感を高めてあ
げるから、と今度は両手の爪で同時にあたしの胸をなぞり始めそれが脇腹や背中
にまで走っていくと、あたしはもう声を出さずにはいられなくなっていた。
由香里はそんなあたしを嬉しそうに見つめながら、莉紗はそういう声を出すの
ね。それじゃあ、もっとしてあげるから、とベロリと舌を伸ばしそのままあたし
の胸元から乳輪に舌を這わせ、しょっぱい、と呟きあたしの乳首とかそういう敏
感なところをレロレロと舐め続けた。そのたびに上目遣いであたしの目を見つめ
るので、絶対に普通の感覚の人じゃない、と妙に納得してしまった。
 立ったままそんなことをされ続け、本当に立っているのさえ辛いぐらいに脚が
震える。由香里はあたしのお尻をグッと掴みながら乳首を前歯で噛みあたしは、
アァッ! と声を上げると彼女は声を上げて笑い、準備はこれぐらいにしておく
わね、とあたしをソファに座らせてそしてさっき抱えて持ってきた黒いビニール
袋から何着もの赤や黒のラバーのコスチュームを取り出しそれを目の前で拡げて
見せながら、なんでもあるわよ、と微笑んだ。
 実際に、由香里が持ってきたのはすごい数で黒い腿までのタイツ状になったも
のをあたしに見せて、まず穿くのはこれね、と教えてくれた。
メイクボックスから小さなエイトフォーを取り出して、裏技があるの、とあたし
の脚やほぼ全身にそれを吹き付けた。
柑橘系の粉っぽい臭いだ。そういえば高校の時、体育の時間とかの後に彼女と一
緒にレモンの香りのするエイトフォーをお互いの体に吹き付け合ったことを思い
出した。
由香里が言うには、ラバーは肌に張りついて身に着けるのが困難だからタルカム
パウダーをはたいたりするらしいんだけど、こういうスプレーを使えば一気に全
身にむらなくパウダーが撒けるから便利なのだということだ。
 由香里にタイツというのかストッキングというのか、ラバーの長いそれを脚の
爪先からゆっくり穿かせてもらったけど確かに肌に引っかからずにスムーズに穿
けていってる気がする。
まず脚が黒いラバーで覆われると、次はこれね、と大きなゴムのパンツのような
ものを見せ、股間部分に張りついている大きな黒い男性器を指で弄りながら、穿
くのよ、とあたしの脚を持ってそれを穿かせると、これもね、と今度はラバーの
ミニスカートのようなものを穿かせてくれた。
股間の部分だけ黒いラバーの男性器がスカートを押し上げるように勃っていて圧
巻だ。
 更にバックファスナーになった黒い長袖の上着のようなものをあたしに見せ、
ファスナーを引いて開くとあたしに袖を通すように促してきた。
言われるがままあたしはそれに袖を通し、前から後ろにという形でそれを着込む
と、ちょうど胸の部分に大きく膨らんだバストカップがありその先端には真っ赤
な太いラバーの男性器が一本ずつ生えていた。
驚くあたしを面白そうに眺め、由香里は黒いラバーの手袋をあたしの手に被せる
と手首の部分にリストバンドのようなベルトを巻いて、まだまだあるからね、と
黒地に両サイドと中央に赤い縦ラインが入ったラバーのコルセットを見せて、胴
にそれを巻き付けると、苦しいけど我慢してね、と一気に締めつけた。
ギュッと胴が締めつけられ、胃の辺りが押さえつけられるようで息苦しいんだけ
ど、そのお陰でウェストが美しいラインを描くようになっていた。
 いままでとは少し違い少し勿体ぶるような手つきであたしの目の前に差し出さ
れたのは黒い袋のようで、よく見れば頭部をすっぽりと覆うマスクだった。
目と口の部分がくり抜かれたバックファスナー式のものになっていて、あたしの
髪を押さえながら顔に被せて勢いよく引っ張ってあたしの顔をマスクで覆った。
ゴムが引っ張られたり擦れたりする、パキパキ、キュキュキュ、ピキピキという
音が頭の中で響いてなんだか甘いような樹脂の香りがあたしの鼻から奥に向かっ
て突き抜けていった。
あたしの全身はゴムの皮膜に覆われて、いまや完全な無機質なシルエットに変わ
っていた。
 由香里はそんなあたしを満足そうに眺めて何度も頷き、よく似合ってる。すご
くビッチな感じよ。これもあった方がいいわね、と赤いラバーのマントのような
ケープのようなものを羽織らせてくれた。
あたしは初めてラバーを身に着けたんだけど、とても満足だった。
ラバーの皮膜は艶めかしく照り輝いてはいたけど由香里が吹き付けてくれたスプ
レーでよけいに光沢が増し、それは初めて遭遇するエロティックな感覚だった。
 完璧にラバーで装備を固めたあたしの体をゆっくりと撫でながら由香里は静か
に、締めつけられて苦しくはない? と聞いてくるのであたしは首を振って、そ
んなことないよ、と答えると、それなら良かった、と言って黒いラバーの手袋を
はめながら、私もマスクを着けようかな、と手慣れた感じであたしと同じ黒いラ
バーのマスクを被り、更にその上から恐ろしく分厚いゴムで出来た不気味なマス
クを被った。
それは目の部分が黒いガラスのレンズになっていて、鼻の部分には二本のチュー
ブが伸びていてそれが鼻の穴に突き刺さるようになっているみたいだった。
口の部分には丸く穴が空いていて、なにかを取りつけられるような独特の形状を
していた。
 由香里はあたしに抱きつくように絡みつき、腰に腕を回しもう一方の手であた
しのお尻を撫で回しながら、ラバーが擦れる音を聞いているといやらしい気持ち
になってくるのよ、と囁くように声に出し、莉紗のお尻はいい形。淫乱でどうし
ようもなく卑猥な触り心地よ、と嬉しそうにあたしのお尻を撫で回しグイグイと
揉みながらあたしの胸からそそり立つラバーのペニスに頬を押し当て、ゆっくり
と頬ずりをしながらお尻を触る手が徐々に腰や背中を撫でるようになっていき、
しゃぶるわよ、と胸のペニスを口に咥えた。
 由香里はまず舌を伸ばして、ペニスの先端の辺りをゆっくりと何でも上下に舐
めてから一気に蛇が小動物を飲み込むように先端からズズッと咥え込み、まさに
フェラチオをするように作り物のペニスを口から出し入れして、卑猥な音を漏ら
しながらドロドロとした涎を絡みつかせ熱心に啜った。
たぶん、あたし自身もそうだけど、日本人の女はこういうフェラチオはしないな
あ、とか思いながら由香里の熱心な様子を眺めていた。
彼女はとにかくよく舌を動かしていて、もしあたしが男だったら本当に気持ちが
いいだろうと感じさせるぐらい、本当に舌使いが巧い。
 由香里はフェラチオをしながらあたしを見上げレンズの奥の目はきっとあたし
を上目遣いで見つめているんだろう。そう思うとなんだか急に加虐者になった気
分だ。
思わずマスクに覆われた由香里の頭に手を当て、後頭部をゆっくり撫でると彼女
は、ウーンと呻くようにして喉の奥から涎まみれになったペニスを吐き出し、あ
たしの体にすがりつくようにしながらゆっくりと体を沈ませ膝で立つと、莉紗の
オチンポ咥えさせて。いつまで咥えてても絶対にいかないオチンポ大好きよ、と
股間の辺りに顔を押しつけスカートを捲るとそこら中をベロベロと舐め始め、あ
たしの股間にそそり立つ大きなペニスに頬擦りしながら喉を鳴らした後に長く伸
ばした舌を絡め深く咥え込んだ。
それは海外のポルノ映画のような光景だった。
 あたしは思わず、淫乱、と呟くと由香里は甲高い声で笑い、そう。私は淫乱な
の、それだけじゃないわ…、とあたしのペニスをしゃぶりながら答えた。
あたしは、自分がどういう性癖なのかわからない。例えばサディストとかマゾヒ
ストとか、そういうこともよくわからない。
だから、自分が淫乱でフェティシストだと認めている由香里が羨ましい。自分の
ことを理解しているっていうのは、良いことだと思う。
なにより、自分で選んで自分が好むプレイをすることができるんだから。何が好
みかいまいち分かってないあたしは、いまいち好みなのかよくわからないような
男と、上手いんだか下手なんだかわからないセックスをして、気持ち良かったん
だか良くないんだかわからないような行為を繰り返すしかない。それは無駄なこ
とにも思えてくる。
 由香里はフェラチオを止めると、私はねこういうサディストのナチスの女将校
みたいな格好をしてるけど別にどっちに傾いてるってわけじゃなく単純の快楽を
シェアしたいだけなのよ、と言って足下のあたりを手で探ると細いドレッシング
ソースのビンのようなものを手にして、これを使うと楽しいわよ、とビンから半
透明の粘液を手のひらに垂らしそれをあたしの胸や頭部にビチャビチャと塗りた
くると激しく糸を引きぬるついて、薄いゴムの皮膜越しに不思議なひんやりとし
た感触が広がった。
あたしが驚いていると思ったのか、冷感ローションっていうのよ。ピガールのポ
ルノショップでディスカウントセールしてた時のお土産、と言って自分の顔にも
粘液を塗りあたしの太股や胸に頬や頭頂を押しつけヌルヌルという感覚のなか摩
擦で起こる不思議な感触を味合わせてくれた。
 あたし達は特にその行為が激しい性感を生み出すわけでもないのにお互いの体
にローションを擦り合い、触ったり揉んだり抱き合ったりそういうことを繰り返
した。
ローションが糸を引き濁る。ラバーの表面がより光沢を増していく。ラバーが擦
れ合う、あの音が止んだ。摩擦が限りなくゼロに近づいているのかも知れない。
由香里は頬をあたしの耳の上あたりに密着させて、楽しい? と囁きあたしが、
うん、と答えると彼女は、こういう瞬間に幸せが訪れるって…わかるかなあ。激
しく絡み合う快感も時間を消費する上では最高のエンターテインメントなんだけ
ど、それ以上に無駄にこうやって抱き合ってじゃれているだけっていうことに、
私はハピネスを見出せる気がするの、とやけに哲学的なことを言った。
アルコールがまわりきってしまったあたしにとって、哲学的な言葉は、なんだか
よくわからない無限のループへ誘い込む呪文のようでもあった。
 冷感ローションが体温と同じ温かさになっていく。セカンドスキンの表面を覆
う、もう一つの体液みたいだ。なんか爬虫類っぽい感覚かな。
もしかして、ラバーを脱ぎ捨てた時の開放感って、脱皮の感覚と同じなのかも知
れない。
由香里はあたしの腰と背中の中間地点ぐらいに腕を回し抱き締めながら、あたし
の頭をペニスを弄るようにもしくはとても愛おしそうに撫で、来週にはドイツへ
行くことになるの。仕事が終われば帰ってくるけれど、でもなんとなく国を離れ
る時の未練みたいなものが感じたくて、莉沙とこうしているのよ。次に帰ってき
た時に、私を待っていてくれる人が欲しい、それは莉沙だったらとても幸せ、と
言って黙ってしまった。マスクをしているから由香里の感情は目では見えない。
それでも人が泣く瞬間は、夕立前のあの風を浴びるように、なんとなくわかる気
がする。
 ずっとずっと抱き合っていたい、なんていう百回ぐらいセックスを経験した後
でも処女や童貞みたいに語るような奴が口にする気持ちの悪い発想も、想いもな
いけど、今は肉感的な接触と摩擦のセックスがなくても全然平気だ、と思えてい
る。こうしているとドッと疲れが体表に浮き上がってくる気がする。なによりも
う眠い。セックスをしなくたってこの気怠さはやってくる。
由香里が、まだ二時にもなってない。夜って長いのね、と呟いた。あたしは、そ
うだね、と呟いて彼女のお尻のあたりを触っていた。


―深夜の人気もない街角のショウウィンドウに映ったあたしの姿は美しくて異様
だった。
フード付きの漆黒のラバーマントを纏った、全身ラバー尽くめの女。
鏡のように光沢を放つ真っ黒なラバーキャットスーツに、装飾のない黒のラバー
フード、厚みのある黒のラバーグローブに、歩行の妨げでしかない黒いスパイク
ヒールのブーツ。
大きく膨らんだバストカップと、股間から突き上げるように生えたラバーに覆わ
れた太く長いペニスと二つの睾丸。
男とも女ともつかない、この異形の姿こそ病的なまでに心を奪われる姿だった。
 あたしは突き出たペニスを握り締め、男がするようにそれをしごき始めた。
ショウウィンドウに映る自分の姿を食い入るように覗き込みながらあたしの背後
で同じような姿の黒い人影が蠢く。
そしてあたしの耳許で、夜って長いのね。まだ朝には遠いわ、と笑った。
 由香里があたしへ残した、置きみやげはとても罪深いものなんだ、ということ
を彼女はわかっているんだろうか。夜が続くことに、少しだけ幸せを感じた。

Fin.