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ウィンターバード
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年末から新年にかけて空気の質が変わる。
雰囲気じゃなくて、明らかに空気の質が変わる。それは、冬の乾燥した埃っぽい
空気ではあるけど、どこか新鮮で、年が生まれかわるほんの短い間だけこの星を
覆い尽くすヴァージンな空気。
私はそんな季節の空気が好きだ。忙しなく動き回る東京の街を往く人達とは逆行
するようにヴァージンな空気と剃刀みたいな風を受けて、鉛色の空でも見上げる。
今日は彼女のバースデイだ。誕生日は、ほぼ世界的に祝福の日。それはキリス
ト教国家でも日本でも同じように祝福の日だ。
去年のクリスマスは表参道で過ごした。どうしようもないカップル達がウロウロ
する光景は許せないものがあるけど、日本ではないどこかを感じられる。クリス
マスには最も適した場所だと思うから。ナザレの大工のバースデイなんて、私が
祝ってやる義理もないけど、この国ではただのお祭りだ。
でも、肝心の彼女のバースデイはよりにもよって西新宿だ。西新宿のビルの谷間
で激しい凍風に晒されながらビジネススタイルの人の流れにため息しか出なかっ
た。
今日は特別な日だから少しは気合いを入れているつもり。普段は面倒だから放
ったらかしの足の指にもしっかり黒のペディキュアを塗ったりもしたし、おろし
たての革靴なんかも履いたりした。
私はもちろん女らしいファッションも好きだけど、気合いを入れたいときはユニ
セックスな黒のスーツとパンツスタイルであることが多い。少し男っぽい格好の
ほうが好きだ。流行とかは別に、もう定番になってしまった豹柄のマフラーをし
て家を出た。正直言って私みたいなスタイルは西新宿では珍しいと思う。繁華街
の方では別だと思うけど。
私が今つきあっている相手は通信機器の会社で役員秘書をやっている柘植香澄
という同年代の女だ。
自由にやってある私とは正反対の堅い仕事に就いてるし彼女はマジメな部類の女
だと思う。ただ年収で言ったら彼女は私の足元にも及ばない。
彼女はティファニーのアクセサリーを好みブルガリの時計はありがたいものだ、
と信じている。
私はアクセサリーといえば太いシルバーのネックチェーンやブレスチェーン、ク
ロムハーツの粗削りな指輪ぐらいだ。
香澄が働いているインテリジェントビルの入口付近にある電話ボックスに背も
たれながらスーツの胸ポケットから煙草を引っ張り出し、煙草をくわえながら香
澄が働いているだろうビルの高層部を見上げて瞼を閉じた。
吐く息は煙草の煙と同じぐらいに白く輝き、どこへともなくユラユラ流れていく。
何やってんだよ、自分と香澄両方にそう呟きながら煙草をふかしていると不意に
携帯が鳴り、それは香澄からのメールだった。
「もうすぐ下に降りるからエントランスで待ってて」
メールを読み終えると、それまでくわえていた煙草を電話ボックスのガラスに
押しつけて香澄が働くビルのエントランスへと歩いていった。
おおかたのビジネスマン達は足早にその出入口からゾロゾロと這いだしてくる、
香澄の姿は見あたらない。
私はこういった時間が一番嫌だ。駅や往来の波の真っ直中に取り置かれ、ただ目
的の相手を目で追うようにして待つ、という瞬間がたまらなく嫌だ。
通り過ぎていく人達が自分をどういう目で見ているのか、とかそういうことが気
になってしまう。
苛つきながら自分の髪に触れようとして、冬の入りに長かった髪を切ってしまっ
たことを思い出して、肩までになった髪を触れずに人差し指に通された銀の指輪
を顎に当てた。ため息しか出ないよ。バカ。
そうやって暇をもてあましているとようやく香澄が澄ました顔をしてビルから
出てきた。彼女はそのまま私のそばに寄ってくると、お待たせしました、と他人
行儀な言葉を掛けてきた。
彼女は職場の人間にカミングアウトしてるわけもなく、友人関係以外に同性とつ
きあうことは恥なことだと思っている。恥というよりも、自分の立場を崩してし
まうことだと恐れているのかも知れない。
私は普通の仕事はしたことがないからそういった不安や恐怖はない。でも香澄
が自分はセクシャルマイノリティであるということで不安を持つ気持ちはわかる。
だから、彼女の職場のそばではあえてベタベタするつもりはないし、ドライに持
っていこうと気をつけている。
歩き出しながら、ホテルとってあるけど、もう、すぐに行く? と小さく囁くと
香澄は、買い物とか混んじゃってて出来そうもないよね、と呟いて、ラッシュタ
イムだし、まだ新年だしだもんね、と聞こえるか聞こえないかぐらいでもう一度
呟いた。私は答えようか聞き流そうかと思っているうちに、寒いからホテルに行
こう、と香澄が言ってくれたので、そうだね、とだけ返して大通りまで出てタク
シーを捕まえた。
タクシーなんて本当は必要ないぐらい近い場所なんだけど、こんな時間に外を
歩くのも気が引けるから同じ西新宿にある高層ホテルまでタクシーで行くことに
した。タクシーの中ではお互い特に言葉も交わさずボンヤリというほどでもない
けどこれといって何も考えずに窓の外だけを眺めていた。
私達はホテルのエントランス付近でタクシーを降りると、高層ホテルの入口を前
にしてやっと香澄が私の身体を触れてくれて、誕生日に高級ホテルで過ごすのな
んて久しぶりかも、と言って笑った。
香澄があまりにも無防備な笑顔を見せるので何だか可笑しくなってきてしまって、
そこまで喜んでもらえるならハイアットでも予約しておけば良かったね、と言う
と香澄は、ハイアットとかじゃなくてもいいのよ、ここだったら全室夜景も見え
るんでしょ? と言うので、頑張って高層のフロアは予約を入れといたよ。でも
殆ど先約が入っちゃってて、なかなかいい部屋は取れなかったけどね、と香澄の
腰に腕を廻しエントランスの扉をくぐった。
既にチェック・イン済みなので、フロントに預けていたルームキーだけを受け
取り香澄と共にエレベーターで部屋のある32階へと向かった。
香澄はエレベータの中で、もしかしてビジネスフロア? と囁くので、東側だか
ら、と軽く微笑むと、東側っていうと、何かあったっけ? と間抜けな顔をする
ので、東側はね新宿駅と高層ビル街が見えるんだよ、西側は中野や新宿公園方面
ね、というと香澄は嬉しそうに笑った。
エレベータから部屋まで行く途中、西側のひらけた景色もいいけどどうせ新宿の
ホテルに泊まるならビル街の夜景もいいんじゃないかな、と思っただけ、と告げ
ると、そうよね、ビル街の夜景は会社の窓から毎日見てるけど、でもホテルから
見下ろす景色とは全然違うわ、と私の袖に手を掛けた。
私達はほんの短い間だけ男女のカップルのような格好でホテルの回廊を歩いた。
部屋に辿り着くまでのほんの短い間。
エスコートするように香澄を部屋に入れると、テーブルの上に置いておいた白
いケーキボックスと羅紗紙でラッピングされたシャンパンの封を解いて、バース
デイ・デコレーションがされたイチゴのホワイトケーキとキュヴェ・ドン・ペリ
ニョン・ロゼを見せると、わあ、と声を漏らして香澄は嬉しそうに覗き込んでい
た。私は照れながら、ケーキは不二家で買ったやつだよ、有名なパティシエが作
ったようなやつじゃないし、そのドン・ペリだって3万円もしないよ、ホストク
ラブでそんなのがバカみたいに高額で振る舞われてるのとか見ると吐き気がする
よ、と言うと香澄は、そうなんだ、ドン・ペリのロゼは高いものだと思ってたけ
ど普通に買える値段なのね、とロケットのようなボトルを見て頷いていた。
本当に高いものはキュヴェ・ドン・ペリニョン・レゼルヴ・ド・ラベイという、
通称ドン・ペリ・ゴールドという下品な呼ばれ方をしているものだ。
これは本数が殆ど日本には割り当てられていないから手に入れること自体難しい。
ドン・ペリ・ロゼをピンクドンペリとか呼んでいる馬鹿な男には永遠に手に出来
ないものだ。そんな男が手にしたとしても、あっという間にその価値は消えてし
まう。
夕食前だけど、さっそくケーキとシャンパンを食べようか? と香澄の肩を叩
くと、久しぶりよ、こんな丸々のケーキを食べるのって、私が切り分けようか?
と言うので、あ、いいよいいよ、私だって一応女だよ、それぐらい出来るから、
と笑いながらあらかじめ用意してもらっていたシャンパングラスやフルーツナイ
フ、フォークなどをテーブルに置き、ちょうど良い大きさにケーキを切り分けて
からグラスに桃色のシャンパンを注いだ。
香澄は切り分けたケーキをあっという間に食べてしまうと、シャンパンを味わう
わけでもなくゴクゴクと飲んでいる。
私はイチゴのケーキにイチゴ風味のするシャンパンという組み合わせで買ったん
だけど香澄は気付いていない。
ドン・ペリ・ロゼは少し辛味が強いのでくどいものにも良く合うから、だからケ
ーキを食べた後の口直しには良いかも知れない。
私は窓際に寄り、ガラス窓にもたれるようにしてキラキラと輝く街を見下ろし
ながら、せっかくこの部屋を取ったんだから夜景でも見ながら飲みなよ、と香澄
を呼ぶと彼女はグラスに桃色のシャンパンをなみなみと注ぎ、私に寄り添うよう
にして窓ガラスの外に目をやった。
もう、これだけで映画のようなロマンティズムは完結してしまっている。でも、
ただのロマンティズムだけで彼女との夜を終わらせてしまう気はない。
こんな記念的な夜には、いつも以上に淫らでディープな関係を持たないと、勿体
ないじゃない?
香澄がある程度、夜景とシャンパンを堪能したことを見計らって、食べかけの
ケーキの表面を指でなぞり生クリームを掬い、香澄、舐めな、そう言って香澄の
目の前にクリームまみれの指を突き出すと香澄はためらわずに私の指をくわえ、
上目遣いのような目で私を見上げながらチュブチュブと音をたてて指を舐め始め
た。香澄の下が私の指に絡みつく。私はその指で香澄の歯の裏側や上顎の裏をい
じってやる。香澄に指を舐めさせながら片方の手で香澄の頭を撫でてやると、指
フェラチオだけ? と香澄が私の人差し指の先をコリコリと噛みながら微笑むの
で、やっぱり指じゃ満足できない? と言うと香澄は照れながら、せっかく本物
のがあるんならそっちをくわえたいよ、呟いて頬を赤らめた。
私には生まれつき男性器がはえている。それでも私の性別は女だ。私には姉が
いたけど、姉にも同じように男性器があったように思う。姉とは仲が悪かったし、
一緒にいると殺意を感じるぐらい波長が合わない姉のディティールなんか精細に
覚えていたくもない。それでも私と姉には男性器がはえている。
私は黒いスーツを脱ぎ、その下の黒いシャツのボタンを外しながら、香澄も裸に
なりなよ、と声をかけると香澄もブラウスのボタンを外し脱衣を始めた。
私は男っぽい服装だから脱ぐのも着るのも簡単だ。ブラジャーなんてしないから、
シャツを脱げばすぐに胸が出る。後は、ベルトを外してスーツに合わせたパンツ
と、ショーツを脱げばもう裸だ。靴下とブーツは裸になってからゆっくり脱げば
それでいい。香澄がスカートを降ろしたりストッキングをクルクル脱いでいる間
に、私はもうすべて脱ぎ終わっている。
最近通したばっかりの乳首のピアスをいじったり、股間から垂れた男性器を弄
んでみたりしながら香澄が裸になるのを待っていると、脱いだわ、と言って裸に
なった香澄が私の腕にまとわりつくようにすり寄ってきて、じゃれるなよ、そう
言って肩に手を当てて抱き寄せながら鳥のついばみのようなキスを交わした。
香澄は私の胸に頬を寄せてペロペロと言いながら乳房や乳首を舐めて、瑠美のオ
ッパイって意外と大きいよね、と呟くので、あんまり嬉しくないね、と香澄の背
中に回した手で彼女のお尻を掴むようにしていじると、くすぐったいよ、と香澄
はお尻を左右に振って私はお尻側から手を滑らせて彼女の性器に指をねじ込んで
いくと香澄は驚いたようにアッと声を漏らして体を震わせた。
突っ込まれてもないのに、そんな声出すなよ、と香澄の耳許で囁くと、突然い
じられたら驚くよ、と弱々しい声で答えるので、こうやって裸で抱き合ってるく
せに突然も何もないだろ、と言って一旦香澄の体を離し少し硬くなってきたペニ
スを掴み食べかけのケーキに勢いよく突き立て生クリームを纏うと、さっきの続
きから、と言って生クリームまみれのペニスを香澄の前に突き出し、しゃぶって
綺麗にして、と言うと香澄は、スウィートフェラチオ、と呟いて私のペニスをく
わえるとングングと言いながら、いつもよりも美味しそうな表情をしてフェラチ
オを始めた。私のペニスは普通の男よりは大きいし、フェラチオぐらいじゃイク
ことはないんだけど香澄があまりにもズバズバと音をたてるように啜るので久し
ぶりに心地良く感じてきてしまった。
ペニスの下に隠れた女性器から愛液が溢れ始めたことを自覚し始めた頃、香澄は
フェラチオをやめて私の女性器に舌を伸ばし垂れ落ちそうになった愛液を舐めだ
したので、こっちはちょっと鈍いから、フェラチオされるほどは気持ち良くない
な、と彼女の顔を引き離すと、本当はさ、もうやりたいんだよね、入れさせなよ、
と言って香澄の耳たぶに噛みついた。
香澄は目を細めて、まだ濡れてないよ、と首を振るので、もうこっちは充分濡れ
たから、そう言ってテーブルチェアを窓の方に向けて腰を降ろすと香澄の腕を引
いて自分の膝の上に座らせた。
香澄は硬くなったペニスを気にしながら私の膝の上に座ると、まだ濡れてない
から、瑠美の大きいでしょ、だから入らないよ、と俯き加減に呟くので香澄の腰
を両手でグッと持ち上げ、きついのも痛いのも香澄だけ、私はそれなりに楽しめ
るから関係ないよ、そう言って少しだけ浮かした香澄の腰を支えながら、上向き
の矢印のようになったペニスを掴んで慎重に彼女の性器の入口を探った。
濡れていないと言っていながら香澄の入口はそれなりに湿っていて、最初こそ強
い抵抗感があったけど先端さえ入ってしまえば、それなりにインサートできる。
私のペニスは激しい圧力を受けながら香澄の内部へと進入していった。
香澄を支える手を放すと彼女の腰が私の上に沈み込み、そのお陰で私のペニスは
より香澄を貫くことが出来る。
香澄はクアァという声を漏らして腰から下をひどく緊張させるので、私は彼女
の胸を両手で揉みながら、そんなに緊張すると締め付けが強まって疲れるよ、も
っとも私は気持ちいいだけだけどね、そう言いながら香澄の汗ばんだ背中に舌を
這わせた。
突き上げ、胸を揉み、背中を舐める、この繰り返しだけで香澄はおかしな声を漏
らすようになり、彼女の下半身は潤いを増した。
香澄は小刻みな呼吸と呼吸難のような喘ぎを漏らしながらただ呆然と窓ガラスに
映った自分の姿を眺めていた。窓ガラスに映る香澄を通して新宿の夜景が煌びや
かに映えている。
膝の上で香澄を弄びながら、後ろから犯されてる姿がよく見れて嬉しいだろ?
香澄はこういう姿を晒しているのが、一番お前らしくていいと思うよ、澄ました
顔よりも私の膝の上の人形になってるほうがさ、そう呟くと香澄は涙を浮かべて、
私、愛されてるんだよね、瑠美に今たくさん愛されてるんだよね…幸せなんだよ
ね、そうやって無意味に何かを確認するように呟き始めたので、私は好きな子し
か抱かないよ、たぶん香澄がいま思っていることが正しいと思うよ、そう囁き心
の中で、そう簡単に愛を勝ち得ることも、愛を分かち合うことも出来てしまうは
ずがない。少なくとも私が一番愛おしいと思うのは私自身だと思う、と何度も繰
り返し、姉のことを愛せないような女がそう簡単に他人に愛を分け与えるわけが
ないだろ、有償の愛も無償の愛もひとかけらたりとも私から誰かに与えられるも
のはない、私の本心が口をついて出そうになった。
沈黙は苦しい、その場凌ぎのための笑顔はもっと苦しい。でも、誰かを思いや
って言葉をかける行為は、それ以上に痛くて、そして死にそうになってしまうほ
ど自分が哀れに感じてしまう。
沈黙は嫌だ、だから傷痕が残るほどキスをする。香澄の首筋に私なりの祝福。天
使のキスは祝福をもたらし、悪魔のキスは堕落への誘い。香澄、今だけは好きに
なってあげるから、私を苦しめないでね。
香澄は体を震わせ、髪を振り乱し、私の膝に爪痕を残すぐらい乱れきっていた。
私は膝に抱えた肉の袋のような存在に思い切り射精をすると、ブブという音と共
に香澄の性器から大量の精液が溢れ出してきた。
香澄は射精してからしばらく経って下半身のぬかるみを感じたのか、永く深い溜
息を吐いた。
その後、香澄は私に向かい合うように繋がった姿勢のまま抱きつくと、私の肩
に顎を乗せ荒い呼吸を耳許で聞かせ続けた。
彼女の鼓動が私の胸を伝わって染み込んでくる錯覚がする。香澄はその格好のま
ましばらく何も言わずに私に抱きついていた。
私の趣味じゃないけど、香澄の後頭部を撫でながら耳許や首筋に軽いキスをおこ
なうと、香澄は、この翼のタトゥ好きよ、と私の背中を指でなぞり小さく呟いた。
私の背中には赤い対の翼が彫られている。憧れや装飾で施したタトゥじゃない。
いつか目指す場所へ辿り着くための私だけの翼だ。それは天まで届かない天使の
翼、まるで低い冬の空を飛ぶ鳥の翼だ。誰かを幸せに導くためのものじゃない。
香澄、誕生日おめでとう、香澄の体に触れながら。 |
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Fin.
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