Mad Angel |
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その日の東京。気温35.5度、晴れ。 あたしが出掛けに見た、ポータルサイトのインターネット天気予報。 午後6時の約束だった南青山での待ち合わせは見事にすっぽかされ、47分後に携帯電話のメール 着信音が気怠そうに鳴った。 「いま目白。今日、やっぱ無理っぽい。今度オゴルから許せ。 カナ」 それが、待ち合わせ人からあたしへの伝言だった。 こういうとき、あたしはメールというものの存在を恨む。メールが普及してから気のせいか約束をすっぽかされ ることが多くなった気がする。そういうときのメールの伝言は、まるで品川駅とかで見かけるオヤジ同士の社 交辞令のようだ。吐き気がする。 あたしは、せっかく表参道まで来たっていうのに、と思いながら涼むために入っていたアメリカンスタイルの コーヒーショップを後にした。外に出ると異様に生暖かく湿った空気があたしの頬を撫でて、そして白い壁が あたしの目の前を遮った。天気予報はあてにならない。白い壁は熱帯のスコールのような激しい雨だった。 あたしは白い雨の壁を割るようにして踏み出すと、あたしを大粒の水滴が激しく叩き、火花のようにバチバ チと音を立て飛び散っていく。傘なんて無い、だから濡れるしかない。 あたしは今日、カナとお金を使うためにわざわざ5万円も引き出してきたのだ。カナが、表参道に良い店 を見つけたからそこへ行こう、と言うのでわざわざお金までおろして待ち合わせたのに、カナは来なかった。 使うために引き出されたお金は、新鮮なうちに使ってやらなければ死んでしまう。使ってあげなければそ のお金はその存在価値を無くして、きっと悲しく死んでいってしまうに違いない。挿入前にイッてしまった 間抜けな男のペニスと同じだ。そのときのあたしは、どうやっても今日中にその5万円を使い切る気でいた。 あたしはひたすらに土砂降りの表参道を歩いた。急ぎ足のクルマと傘のカップルがあたしの脇を笑いな がらすり抜けていくような感覚に陥りながらも、あたしはその5万円が使命を果たすために最も見合うお店 を探した。雨で重みを増して頬に張り付く髪があたしを余計ブルーにしてくれる。 精神が沈んでいるときは意識は明るく華やかなものを求めるのに、不思議と無意識下では寂しい方向 へ向けて脚を動かしていってしまう。現実にあたしの脚はどんどん南青山の住宅街の方向へ向けて動き 出していた。表参道のメインストリートを歩いていたはずなのに、よくよく気付くとあたしの周りはマンションや 住宅が並ぶ閑静な場所に取り囲まれている。よくあることだ。 今のあたしはメインストリートや駅へ戻ることよりも雨宿りできる場所が欲しかった。だからどこかの家の ガレージでも良いと左右ばかりを気にしながら雨の中をただひたすらに無意図に歩き続けた。幾度も同じ ような景色を眺め同じようなブロックを曲がり、それを繰り返しながらしばらく歩き続けると不意に「深海BA R Aegean」という普通ならば見過ごしてしまいそうな銀色のプレートが目に入った。銀色のプレートは背 の低い黒い石柱に埋め込まれていてその脇には、石柱と同じ色の背の低いビルが建っていた。 プレートが埋め込まれている石柱に近づいて良く見てみると、石柱には矢印が描いてあり矢印は背の 低い黒いビルの地階に下る階段を指していた。下り階段は狭く急で、でもあたしはそういった妖しげな雰 囲気が好きだから雨宿りがてらにその店を覗いてみることにした。 階段を下っていくと焦げ茶色の木製の扉がありドアノブにはオープンと描かれたアルミプレートが提げられて いた。ドアノブに手をかけると意外に軽くその扉は開いた。 異世界への入り口のような扉の向こうは本当に異世界のようだった。店内は薄暗く、正面にカウンター がある。その両脇の壁は全面が水族館の水槽のようになっており、水槽は蒼白い蛍光灯の明かりに照ら されている幻想的な内装だった。 店内はがらんとしていてお客の姿はなく、あたしが店の扉を開けるとカウンターの中にいるバーテンダーらし き女性があたしに鋭い視線を向けた。 あたしはバーテンダーらしき女の視線があまりにも痛すぎて店に入るのすら躊躇ったが、店内の雰囲気 も良さそうだし雨もしのぎたいので思い切って入ってみることにした。 「いらっしゃい」 店に入ると目の鋭いバーテンダーらしき女が低い声でそう言った。それはほとんど呟きのようだった。あたし がカウンターへ一直線に歩み寄っていくとバーテンダーらしき女が、こんな雨じゃお客なんて来ないと思って いた、と言ってあたしをバカにしたように笑った。 あたしはカウンターの席に座るとバーテンダーらしき女に、どんなものがあるんですか?、と尋ねた。バー テンダーらしき女は、美しい深海が広がっているじゃないか、とあたしを再びバカにするように言った。 あたしはこんな失礼な店は初めてだったけど面白そうだったので、メニューとかそういったものはどんなものが あるんですか、と言い直した。すると、カウンターに座ったらお客はバーテンダーに総てを委した方が利口だ よ、と言ってすぐに何かのカクテルを作り始めた。 そしてあたしの前に差し出されたものは、ワイングラスに注がれた乳青色の綺麗なお酒でグラスを塩が縁 取っていた。バーテンダーはあたしに、子供用、と言って笑った。 あたしは差し出されたカクテルを一口飲んでみると、やや甘めでレモンの風味がした。さわやかな気持ち になったけどアルコールは強いような気がした。 「フローズン・ブルー・マルガリータ。口当たりはソフトだけど調子に乗って飲み続けたらすぐに酔うよ」 カクテルを飲み終えたあたしの目を見ながらバーテンダーはそう言った。あたしは、綺麗なお酒ですね、と応 えると、カリブの青い海が見えたかい?、と空になったグラスを下げた。 あたしはアルコールが心地良くてもう一杯なにか飲みたくて、何かもう一杯もらえますか、とバーテンダーに 尋ねるとバーテンダーは、一杯目はバーテンダーがお客に合わせて作るけど二杯目は自分でリクエストし なさい、と答えてあたしの顔を覗き込んだ。あたしはどんなお酒があるかなんて、当然知らない。 「あたし、お酒とか詳しくないから…」 それがあたしが答えられる唯一の答えだった。 バーテンダーは笑いながら、甘いのが良いか辛いのが良いか、それぐらいは言えるでしょ。どう苛めて欲し いかも言えないような奴隷を苛めても、全然面白くないのと一緒だよ。お前にわかるかしら?、そう言って あたしを挑発するように振る舞った。 あたしは、さっきのは甘めだったからサッパリしたのが良いです、とだけ答えた。するとバーテンダーは、ふー ん、と言って細長い筒のようなグラスを取り出して、シェイカーなども振らずにあっという間にカクテルを作って あたしに差し出した。 バーテンダーがビールのようなもので割っているのを見たから、それほどきつくはないだろうと一気に金色に 輝くカクテルに口をつけると、想像以上に辛くてずっとアルコールが強かったので、あたしは喉が痛くなってし まった。 「ドッグ・ノーズ。飲み慣れてるものにそっくりだからって、油断するからそんな目に遭うんだよ」 バーテンダーはあたしが軽くむせる姿を面白そうに笑った。そして、お前は単純そうな子だから、これは私か らのアドバイスだからね、と言ってあたしが飲むのを躊躇しているカクテルを下げようとした。無理して飲まな くてもいいよ、それよりも魚を見ていってね、と壁の水槽を指差しながら。 壁を覆う水槽はバーテンダーが自慢げに勧めるだけあって、本当に綺麗で幻想的だった。 蒼白い光の中をカラフルな魚たちがフワフワと泳いでいる。まるでラッセンの絵のようであたしはそんな光景 を夢でも見たことはなかった。 あたしは水槽を端から端まで何度も何度もスライドショウのように見ていると、ふと店内の片隅に等身 大のフランス人形のような物が置いてあるのに気付いた。人形はあたしよりも大きく黒い裾の膨らんだドレ スのような服を着て小さな椅子に腰掛けていた。人形を眺めていると、不意に人形の首が動きあたしの 方に顔を向けた。あたしが人形だと思っていたものはどうやら人形の振りをしているこの店の店員か何かの ようだった。 バーテンダーは少し驚いているあたしに、あの子はうちで雇っているパントマイマーだよ、完全に人形にな りきっているから話しかけても何も答えてはくれないからね、と笑った。 バーテンダーの話しぶりから、バーテンダー自身がこの店のオーナーのようだった。 あたしはバーテンダーに、お人形さんに触ってもいいですか、と尋ねるとバーテンダーは笑って、ご自由に、と 言った。 人形を間近で見ると遠目で見た以上に背が高く、あたしよりも背が高かった。人形を演じているパント マイマーの顔は白く塗られフランス人形そっくりな化粧をしていた。 棘のように鋭くて長い睫毛や厚く縁取られた黒い唇、長い金髪の髪は縦巻になっており遠目で見れば人 形そのものだった。人形はあたしが手を触れてもジロジロ見ても表情を変えることもなく、ピクリとも動かな かった。人形の体は生気や体温をまったく感じさせず強い薔薇の匂いがした。 あたしがしばらく人形を間近で眺めているとバーテンダーが、その子はミカエルっていうのよ、貴女がお願 いすればご挨拶するかも知れないわよ、と言ってケラケラと笑った。 あたしは試しに人形に向かって、ミカエルさんこんにちは、あたしはミナコといいます、ご機嫌はいかがです か、と声をかけると人形はぎこちなくゆっくり椅子から立ち上がり、あたしの前でクルリと回ってお辞儀をし た。それはまるでヨーロッパのからくり人形のようだった。 あたしが人形がお辞儀をしたことに喜んでいるとバーテンダーが、大袈裟だね、と言って、ミカエルこの子と お話ししてあげなさい、と人形に声をかけた。 人形はバーテンダーの声に反応するようにあたしに、可愛いお嬢さん、ご機嫌よう、と良く透る声であた しに話しかけてきた。人形を演じているのは女性のようだった。人形は背が高かったから男の人が演じてい るものだと思っていたから、あたしと同じ女の声で話しかけられてあたしは驚いてしまった。 人形の深い夜のような蒼さを持った瞳と凍るように白い肌を見てしまうと、目の前の人形がとても生きて いるようには思えなくなる。現に人形はどのタイミングで呼吸をしているのかさえわからないほど静かでピクリ と震えることすらなかった。人形は無表情のまま、握手をしましょう、と言ってあたしに手を伸ばしてきた。人 形の手は黒いレースの手袋に覆われていた。その手に自分の手を合わせるように重ねると、ゾッとするほど その手は冷たかった。 人形は握手をした手に片方の手で何かを握らせた、あたしがその手を開いてみると黒い薔薇がそこにあっ た。人形はあたしに、可愛いお嬢さんに、薔薇の花をあげましょう、と歌うように呟いた。 バーテンダーはグラスを拭きながら、たぶん今夜は雨は止まないわよ、ミカエルに駅まで送らせようか、と 言った。人形は、エスコートしますわよ、と言ってあたしの手を持って少し高くそれを掲げた。あたしは、駅ま で行く間にこの人形を演じている人がどんな人かわかるかも知れないと思って、お願いします、と答えた。 バーテンダーは、それじゃあ二千円だけもらうよ、と言ってカウンターに何かの紙切れを差し出した。あた しはカウンターに駆け寄ってその紙を良く見ると、それは請求書と領収書を兼ねた紙だった。紙には青いイ ンクのペンで「¥2000」と書かれていた。あたしはせっかく五万円も持っているのに、と思いながら二千円 を払った。バーテンダーは、こんど来る機会があったら、そのときは覚悟しておいた方がいいわね、お金も取 るししっかり苛めてあげるからね、と笑った。バーテンダーの笑顔は錆びたナイフのようにサディスティックだっ た。 お金を払い終えて後ろを振り向くと、五十センチも離れていない場所に人形が立っていた。まるで気配 も感じさせず、手に黒い傘を持って人形は立っていた。人形の持つ傘は黒い布製の日傘のようなエレガ ントなアンブレラだった。人形は、駅までお送りいたしますわ、と言ってあたしの手を引いた。 あたしは人形に、外はひどい雨だけど、お化粧が落ちてしまわない、と尋ねると人形は、雨じゃ落ちな いわ、皮膚呼吸ができないくらい特殊な素材を使っているから、と言って瞬きをした。 人形はあたしの手を引きながら地上への扉を開いた。扉が開くと同時に再び蒸し暑い湿気を充分に含 んだ空気があたし達を包んだ。人形は手に持った傘を開くと、防水だから濡れたりしないわ、と呟いた。 あたしは人形がさす傘に入ると、人形の背中に真っ白な天使の羽のようなものがあるのに気付いた。フ ワフワした羽根でできた翼をランドセルのように背負っていた。 人形は、さあ、行きましょう、と言って歩き始めた。あたしは人形と同じ速さを保てるように注意しながら、 足を踏み出した。 激しい雨が傘を打ちパラパラという音を奏でる、人形はあたしをエスコートするように黙々と歩いていた。 人形があたしをエスコートして歩いている道順が、この店に来るときとまったく違うことに気付いたのはしばら くしてからだった。 あたしが、来るときと道が違う気がするけど、と言うと人形は、近道、と呟いて再び黙ってしまった。 あたし達はしばらく同じような景色の道を歩き続けた、同じところを何度も廻っているんじゃないかと思いな がら。 来るときの倍以上の時間を歩かされている気がする、近道というわりにいつまでも表参道の通りには出 ないしずっと同じ一角を歩いているのは確かだった。あたしは不審に思って、同じところを歩いてない、と聞 くと人形が、あなたともう少し一緒にいたくて、と小さな声で呟いたのであたしは恥ずかしくなってしまった。 人形は、本当の近道をしますから、と言ってあたしの手を引いた。 人形がエスコートして進んでいく道は、確実にさっきとは違う場所に進んでいる様子だった。でもそれは 大通りに面した方向ではなくて住宅街の深い方向に進んでいる気がした。 青山の住宅街なんて普段歩かないから何とも言えないけど、でもどう考えてもあたしを駅とは別の場所に エスコートしているのは確かだ。 近い空で雷が鳴ったときだった、人形はグレイの色をした古い小さなマンションのような建物の前で足を 止めた。あたしは、どうしたの、と尋ねると人形はもの凄い速さであたしの鼻と口を黒いレース付きハンカチ で塞いだ。 ハンカチからは刺激臭がして意識が飛びそうになった、これがエーテルとかクロロホルムというものなんだろう か、薄れる意識の中で人形は、相手が女でも信用なんかしちゃあダメだよ。バーカ、と無表情に言った。 あたしが目覚めた場所は雨の中ではなかった。それは黒で統一された甘い匂いのする部屋の中だっ た。あたしは真っ黒な窓のない部屋で黒いゴムのシートの上に裸で寝転がされていた。 あたしの目の前には真っ黒なゴムで覆われた細長い足があってその足は真っ赤なハイヒールを履いてい て、徐々に視線を上に移動していくと全身黒く艶やかに光る薄いゴム膜のような服で覆われた明らかに 女だと思わせるものが、黒いゴムのシートで覆われたソファに腰掛けて足を組んであたしを見下ろしてい た。 黒い影のようにも見えるその女はガスマスクで顔を隠し、ガスマスクの呼吸用の蛇腹のホースを酸素ボ ンベに似た幾つかのボンベに繋いで、激しく呼吸を繰り返していた。激しく呼吸をしながら引きつったような おかしな声を漏らして体を硬直させたりもしていた。 黒いゴムの膜に覆われた女はあたしが目覚めたことに気付いて、ガスマスクに手をかけそれを剥ぎ取る ように脱いだ。ガスマスクの下からは黒く長い髪の、鋭い目をした女の顔が現れた。綺麗な顔をしているけ ど病的なぐらい意志が強そうな顔だった。 その女は、ここがお前の天国になるんだよ、と言ってあたしのおでこを鋭いヒールの爪先で蹴って、鋭い踵 で小突いた。その声は人形のミカエルと同じ声だった。 ミカエルの作られた顔とはまったく異なり、自然な美しさがそこにあった。そして何よりもミカエルの静かさとは 対照的に殺気立っていて強く気配を感じさせた。 あたしはその女に、あなたはミカエルなの、と尋ねると女は笑って、お前のような薄汚れた人間に救いの 手を差しのべる偉大な天使だ、と言って虚ろな眼であたしを見つめた。 あたしはどう答えていいかわからずじっと見つめたまま固まっていると女は、お前にはこの私の可愛いコレク ションになってもらうよ、私に選んでもらえたんだから光栄に思いなさい、私は本来ならお前みたいな薄汚 い動物の前では素顔をさらさないんだからね、お前は私の綺麗な顔を見ることができた幸せな動物なん だからね、と言ってあたしの体をヒールで小突き続けた。 女は笑いながらあたしの体をヒールの先で面白そうに小突いて、私はブタが好きなんだよ、お前はブタに なりなさい、と言ってわざとらしく声を上げて笑って見せた。女の片目は痙攣するようにピクピクと動く、神経 質そうなのは確かだ。 女はあたしを小突くのをやめると、私の犬を見せてあげるからね、と言ってソファに沈んでいた携帯電話 のようなものを取り上げると、もの凄い勢いでキーを押していった。女は携帯電話のようなものを操作しな がら、私の飼っている動物は全部これで管理しているのよ、と言ってそれを再びソファに沈めた。 女が携帯電話のようなものを操作すると間もなく、真っ黒い部屋の壁に四角く抜かれた動物用の通り 道を大きくしたような穴から黒い塊が姿を現した。 黒い塊は四つ足で這って歩く、目の前の女と同じ薄いゴムの膜で全身を包んだ生き物だった。 姿を現した黒い塊は手足にエナメル製の黒いピンヒールブーツを履かされていてまるで犬そのものだ。犬 のように這って歩く黒い塊は覗き穴すらない黒いゴム製のマスクで頭部をすっぽり覆われていて、口の部 分から伸びた蛇腹のホースが胸やお腹の下を通りちょうど股間の辺りに繋がっていた。黒いゴムの犬は胸 が膨らんでいたから明らかにそれは人間の女で、そのゴムに覆われた内側のいたる部分から振動音が聞 こえてくる。 女は音だけを頼りに這って歩く黒いゴムの犬がちょうど足下まで辿り着くと、ゴムに覆われボールのように なった頭を勢い良くけ飛ばして、良く調教した犬だから飼い主に刃向かったりはしないのよ、と得意気に言 って見せたそして、私の飼っている動物は全身に約十個のバイブが仕込まれていて、その振動によって命 令を理解するように調教してあるの、これで命令するのよ、と携帯電話のようなものを再びあたしに見せな がらそれを操作した。 すると目の前の黒いゴムの犬が身悶えるように体をくねらせ腰を振り始めた。女は、全身のバイブを最高 レベルに設定したのよ、電気ショックも与えてるから気が狂いそうなぐらい感じているはずよ、と嬉しそうに言 った。 あたしは女に、あんたは頭がおかしいんだ、というと女は嬉しそうに、みんなそう言うよ、でも私に飼われ るようになれば自然と私が正しくて、外の世界が総て間違っていたことに気付くんだよ、と言ってソファから 立ち上がるとあたしに近づいてきてあたしの胸を舐めた。 「お前の体は私が綺麗に洗ったから、こうやって舐めても薄汚い味がしない」 女はあたしの乳首を赤ん坊のように吸いながらあたしの頭を撫でるようにして言った。女はもの凄い勢いで あたしの乳首を吸い頻繁に歯を立てるから痛くて仕方がなかった。あたしに覆い被さるようにしている女の 体を包む黒いゴム膜のちょうど下腹部の辺りには、股間からへその辺りまで腕ほどの縦長の隆起があっ た。 女は上半身を起こしてソファに手を伸ばすと、再び携帯電話のようなものを取り上げて、私が飼ってい るブタも見せてあげようね、お前も私のブタになるんだからね、と言って素早く指を動かしてキーを操作し た。すると間もなくして例の黒い穴から四つ足の黒い塊がやって来た。 黒い穴からやって来たのは、さっきの犬と呼ばれている塊と同じような黒尽くめで手足にブーツを履かさ れた格好だけど、こんどやって来たのは顔に被らされているマスクの形状が違っていて、鼻の部分がくり抜 かれていて鼻が覗いている。その鼻にはフックがかけられていて、後頭部から伸びるベルトでそれを引っ張っ ていた。鼻はフックで引っ張られて醜く吊り上がり豚鼻そのものになっていた。 ブタと犬の体からは振動音が聞こえ両方とも体を小刻みに震わせて悶えているようだった。 女はあたしから離れると二匹の動物の頭を掴みお尻とお尻を合わせる格好で四つ足のまま待機させる と、二匹の口と下半身を繋ぐホースの下半身の部分をそれぞれ外し、黒いゴム製のかなり大きな亀頭が 両方にある双頭のディルドをソファの陰から取り出して、それを二匹の下半身に挿入し二匹を繋いだ。 女は、お前達、今日はお前達の新しい仲間になる牝がお前達を見ているよ、お前達の大好きな遊び をじっくり見せてあげるんだよ、と言って下品に笑って見せた。二匹の動物たちはその言葉と共に腰を動か し始めた。初めは腰をゆっくり動かす程度だったけどすぐにお互いの尻をぶつけ合わすぐらい激しく前後に 動かすようになっていった。 二匹の黒い動物はすぐに呼吸困難を思わせるような激しい息遣いになって、発情期の動物のような 奇声を発しながら互いの尻をぶつけ合わせた。 女はその光景を満足そうに眺めながら、動物にも適度な運動をさせないと肉が弛んで醜くなるからね、こ うやって運動をさせているんだよ、お前もこういう運動が大好きだろ、と下品な笑顔のまま言った。 あたしは二匹の動物たちは、何でこんな格好をさせられてこんなことをさせられているのかわからない、 二匹の気持ちも分からない、あたしはこんな異常な場所からは早く逃げ出したかった。 それ以上にあんなに可愛らしかったミカエルという名のお人形がこんな異常者になってしまって悲しかった。 女は、私の飼っている動物たちは可愛いだろう、お前もこうなりたいよねえ、可愛い私のブタチャン、と 言っておかしな笑顔のまま手に何かを掴んで再びあたしににじり寄ってきた。 そしてあたしの髪を掴んだかと思ったら勢い良くあたしにゴムの袋のようなものを被せて、こんな顔なんて邪 魔だ、と言った。顔が絞られるような若干の窮屈感はあったけど目や鼻や口の部分はくり抜かれていて苦 しくはなかった。 女は、フックで豚鼻になりましょうね、と言ってブタ女と同じフックをあたしの鼻に引っかけて吊り上げてし まった。鼻を引っ張られる痛みは鈍くて、おかしな感じがした。 女は嬉しそうに、いい顔、本当に可愛い、と言ってあたしの鼻の穴に舌を突っ込むようにしてビチャビチャと 音を立てて舐めた。あたしは鼻を舐められるのがこんなにも気分の悪いことなのか、と思い背筋に嫌な痒 さを感じていた。 女はそれでも満足せずにこんどは穴のあいたプラスティックボールに紐を通したようなものを見せて、ボー ルギャグも噛もうね、と言ってあたしにそれをくわえさせると後頭部にまわした革紐を固定した。ボールギャグ と呼ばれるそれは、ひどい中古品で別な女達の唾液の味や匂いがして不愉快なほど気分の悪いものだ った。 女は嬉しそうに、たっぷり涎で汚しなさい、私が寝るときのおしゃぶり代わりにお前の染み込ませた涎をしっ かり味わってあげるから、と言いながらあたしに被せたようなマスクを自分でも被り始めた。マスクにあいた穴 からは目が覗き、その目は一点に定まらず明らかにおかしな方向を見つめていた。 「楽しみだなあ。今日はこんなに可愛い動物達と遊べるんだよぉ」 女は口をモゴモゴ動かしてひどく幼児的でわざとらしい口調でそう呟くと下半身のジッパーを引き下げ始め た。すぐその半開きになったゴムの割れ目からは薄白く、想像以上に大きな男性器が飛び出した。 あたしが驚いている顔を嬉しそうに覗き込んで、天使様にはこんな立派なものが生えているんだよ、こ れで汚れたお前達を清めてあげるんだからね、色々な汚れた穴を清めてあげるからありがたく思うんだよ、 と言って自分の性器を手で覆うように掴むとその手を微妙に動かして目を細めた。女は興奮している様 子で息が荒い。 「さあ、一緒に遊びましょう」 女は嬉しそうにそう言って、あたしを思いきり蹴倒すと一気にのし掛かった。そして、まだ濡れてもいないあ たしの下半身に自分勝手に興奮させているモノを無理矢理に挿入し始めた。 濡れてもいない上に女の男性器は大きすぎる、あたしは唇が裂ける絵をイメージしながら、何人もの女の 味がするボールギャグに歯を立てて耐えた。 女は、私は妹とは違って女を殺したりはしないよ、優しく可愛がってあげるんだ。だからお前を殺したりは しないからね、でもお前は動物だからいずれ手足は使えないように切断しちゃおうかしらねえ、と眼を見開 いたままあたしの顔を1ミリの感覚で覗き込みながら声を震わせて言った。 女の精神状態はまともじゃないけど、もしその女が言う妹、がいるとするならばあたしはこの女のおもちゃに なって一生いたぶられるよりは、何度犯されてもいいからその場で一息に殺されたいと思った。 女の男性器があたしのなかに完全に喰い込むと腰を動かしながら、お前はこれから私をミカお姉ちゃん と呼ぶんだよ、いいね、と言ってあたしのボールギャグの穴に涎を流しこんできた。 あたしはたった一瞬でも隙があるならば、この女の舌を噛み切ってでも逃げ出したいと思ったが、他の女達 のように黒いゴムに包まれてしまったら、もうどうでも良くなって、この女のペットになりさがってしまうのかも知 れない。 カナが待ち合わせさえ守ってくれれば、あたしはこんな目には遭わなかったのに… |
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Fin. |
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