Red Angel

1

 あたしがその人と出逢ったのは、Qフロント前の雑踏の中だった。
Qフロントのビジョンに真っ赤な天使の姿を見たその直後、あたしはQフロントの麓を流れる人の
波に流されようとしていた。あまりにも赤すぎる天使の翼に、あたしの総てが釘付けになって、自分
が何処に立っているかもわからなくなる、そんな感覚に陥っていた。
 幾度も肩に鈍い衝撃を感じながら、あたしは渋谷という街の河口のような、駅へと向かって流さ
れようとしていた、その瞬間だった。
 その瞬間、あたしの左腕に力強い何かを感じた。左腕に目を遣ると、真冬の風になびく長い髪
の人があたしの腕をつなぎ止めていた。その人は、同じ顔同じ服装の人波の中でただ独り孤立す
るように存在していて、冷たい風を背中に受け髪をなびかしていた。
 あたしは黒いコートを纏った背の高いその人を、初め男の人だと思った。でも、一度流れに流さ
れたらもう、戻っては来れないんだよ、というその人の優しい声で、その人が女性であることに気付
いた。そして、その人の手に掴まれた腕が、甘く痺れているような、そんな感覚を覚えた。
 その人に腕をつなぎ止められたままただ立ちつくしていると、このまま放っておいたら、何処か
へ飛んでいってしまうかも知れない、そんな感じがするよ、とあたしを抱き寄せるようにしてその人
は言った。あたしはそのとき、本当に何処かへ飛んでいってしまいそうな感覚に陥っていて、その
人の言葉がひどく自然に体に染み込んでいった。
 ただ、いつものように来た渋谷の買い物。それだけだったはずなのに、あたしは突然自分の体
と意識が離れ離れになったように、そしてそんなあたしをつなぎ止めてくれる誰かを求めていた。
だから、その人があたしの前に現れたとき、あたしの心はその人の手に掴まれたような、そんな痛
さを感じた。腕の甘い痺れは、あたしの心が勝手に作り出している幻想に過ぎない。
 微かな煙草とシトラスの匂いのするコートの胸に、あたしは総てを委ねるようにして頬を寄せると
その人は、気分でも悪い? と言って、あたしの肩に手をかけた。想像していたよりその人の胸は
大きくて、柔らかかった。あたしなんかよりもずっと女性的な体をしているように思えた。
 あたしはその人にこのまま寄りかかったまま過ごせたら気分がいいだろうな、とかこの人に抱か
れたら幸せだろうな、と思った。初めて逢った人なのに、それぐらいあたしを落ち着かせてくれる人
だった。
「熱があるみたいだよ…」
そう言ってその人はあたしの頬に自分の頬をつけ、そしてシルバーのリングピアスが通されたあた
しの耳朶に細くて赤い舌を伸ばした。
 突然の出来事であたしは何も言えなかったけれど、その人の舌はとても冷たくて氷で耳を刺激
されたような感覚だった。その人は目を細めてあたしに、気分が悪いなら、少し休んでいったらど
う? と言ってあたしの首筋に、冷えた手を滑らせた。背筋を硬直させるような冷たさが、あたしの
思考力を奪う。あたしは何も考えることなく素直に頷いていた。
 普段のあたしだったら絶対にそんな行動はとらなかっただろうし、初めて会った人とコミュニケー
ションさえとりたいとは思わなかったと思う。でも、そのときのあたしはどこかがおかしかった。
あたしは名前さえ交わしていないその人と、円山町のホテルへと向かって足を進めていた。
 ホテルに向かう途中あたしはその人に、あたしは香菜です。お姉さんはなんていう名前なんで
すか、と尋ねた。いま思えば間抜けな質問だけど、あたしはその人の名前が知りたかった。ただ1
%でもその人の何かを知りたかった。
 あたしが間抜けな顔で間抜けな質問をするとその人は、初めて会った人に本当の名前なんか、
教えちゃいけない、そう言って何度か首を傾げてその人は、ルシフェル、と呟いた。その人が、ル
シフェル、と呟いたときひどく自嘲的な表情だった。

2

 ルシフェルと名乗ったその人はホテルに入るとすぐ、あたしにフロントから部屋の鍵をもらってく
るように言うと、そのままエレベータの方へ行ってしまった。
あたしはフロントのパネルから雰囲気が良さそうな部屋を選んで鍵を受け取ると、ルシフェルに鍵
を見せながら、部屋は306です、と伝えた。青いカード式の鍵には白抜き文字で大きく306と書い
てあった。そのままあたし達はエレベータに乗り込むと、ルシフェルがあたしの背後に立って耳許
で、こんな場所に女同士で入るのは初めて? と囁いてあたしの髪を撫でてくれた。背の高い彼
女の胸があたしの肩に何度も当たって、あたしはその胸の柔らかさに驚いた。こんな時間がずっと
続いてくれたら幸せだろうな、そう思っているうちにエレベータの扉は開いていた。
 ルシフェルはあたしをエスコートするようにして、部屋番号表示灯が点滅する部屋の扉をあたし
から受け取ったカードキーで開けると、先に上がっていていい、と言って扉に鍵をかけ、そして靴
を脱がずそのまま部屋に上がると、ジュースやビールが冷やされている有料冷蔵庫のガラスの扉
をブーツの爪先で蹴破って、好きなのを飲むといいよ、と言ってあたしに勧めた。
 ガラスの破片が飛び散った赤い絨毯の上に呆然と立ちつくしているような冷蔵庫は、お腹にポ
ッカリ穴を開けている。あたしはガラスのギザギザに気を付けながら冷蔵庫の中に手を入れると、
麒麟のビールを取り出して口をつけた。ルシフェルはあたしがビールを飲む姿をベッドの縁に腰
掛けるようにして眺めている。ビールを飲む姿をジロジロ人に見られたことなんていままで無かった
ので気恥ずかしかった。何よりルシフェルのような綺麗で格好良い人に見つめられていることを思
うと、ゲップが出ないように、とかビール臭い口は嫌われないだろうか、とか色々想像してしまって
なかなかビールの量は減らなかった。炭酸が喉に痛い。
 ルシフェルはしばらくベッドに腰掛けて足をブラブラさせてあたしを見ていたけれど、突然立ち
上がってあたしの手からビールを取り上げると、ビールを何度か口に含んであたしに口移ししてき
た。突然のことだからあたしはしばらくぼうっとしていたけれど、口に注がれたビールは幾度も泡を
はじかせてあたしの舌や口蓋を刺激して、そして温められていつしかドロドロと粘性をもち始めた。
あたしは炭酸が死にドロドロのぬるい液体になったビールを、喉を鳴らして嚥下した。
 その後もビールが無くなるまで、ルシフェルはあたしに口移しをしてくれた。そのときあたしは、
ビールと一緒に何か固いものを飲み込んだような、そんな気がした。喉の感触が鈍かった。
ルシフェルは空になった缶を掌で握り潰すと、部屋の隅に放り投げた。ベコンといって潰れる空き
缶は、そのときのあたしの心臓のようだ。
 ルシフェルはバスルームを指差しながら、時間はたっぷりあるから、お風呂でゆっくりすれば、と
言ってあたしの髪を撫でた。そして、きっとジャグジーだよ、と付け足した。
あたしがバスルームを覗くとシャワーの他にジャグジーの機能が付いたバスタブがあった。バスタ
ブはあたしの部屋にあるものより一回り大きくて立派だった。
 あたしは、それじゃあ、入ってきます、と言ってその場で服を脱ごうとしたけどルシフェルが、恥
ずかしがらずに、あたしの目の前で裸になりなよ、と言ってあたしを呼んだ。
あたしはルシフェルに裸を見せるのがなんだか、まるで自分の貧しさを見せるようで恥ずかしかっ
た。でもルシフェルみたいな綺麗で格好良い人に見られるならば、惜しくはなかった。だから、ル
シフェルの目の前で裸になると、そのままバスルームへ向かった。
 あたしがバスルームへ向かうとき、あたしの背中越しにルシフェルは、綺麗な背骨のラインだ
ね、と言った。あたしはどんなことでもよかった、褒めてもらえたことが嬉しかった。
ルシフェルのその言葉を何度も反芻しながらあたしはシャワーを浴び、そしてジャグジーの刺激を
全身に受けた。綺麗な背骨のラインだね、ルシフェルを真似てバスタブの中で呟くと、背骨をなぞ
るように指を動かした。
 体液のように生暖かくて心地良い刺激の広がるバスタブの中で、あたしは胎児のように体を丸
めた。周りの音が遠くなる、そして心地良い眠気があたしを包む。
あたしはこのまま眠ってしまいそうな体を、深海からサルベージするようにして、バスタブから這い
上がらせそして、用意しておいたセルリアンブルーのバスタオルで体を包んだ。
 あたしがバスルームを出ると、部屋は薄暗く照度が落とされていてベッドの中央に赤い点が見
えた。赤い点はルシフェルが吸う煙草の火だった。ルシフェルはベッドの上に膝を立て組むように
して座っていた。あたしがバスルムームから出てきたことに気付くとルシフェルは、まだ25分しか経
ってないよ、と言って紫煙をふぅーっと吐き出した。
あたしは、あんまりお風呂に浸かっていると眠たくなってしまうから、と答えるとルシフェルは、面白
い子だ、と笑った。そう笑うルシフェルは裸だった。
 ルシフェルは煙草をくわえたままベッドから降りると、香菜、おいで、とあたしを呼んだ。ルシフェ
ルの体は想像以上に引き締まっていてグレープフルーツのような胸があった。あたしは背も低いし
ウェストも細くはないし胸だって小さい。ルシフェルの体はすごく、素敵だった。あたしがルシフェ
ルの許へ駆け寄ろうとしたときだった、ルシフェルの下半身の男性器に気付いた。それは、今まで
あたしが見た男の人のそれよりも、ずっと大きくて綺麗だった。
 あたしがじっとルシフェルの下半身に視線を落としていると、ルシフェルは笑いながら自分のペ
ニスを掴んで持ち上げ、その下に隠れていた女性器を片方の手で拡げて、同じだろ? と言っ
た。あたしがそんなルシフェルに駆け寄るとルシフェルは、バスタオルなんて置いておけよ、と言っ
てあたしを包むバスタオルを引き剥がして放り投げた。そして腰に手をかけてベッドに腰掛けるよう
に促した。ルシフェルはベッドに腰をおろすスピードをあたしに合わせてくれて、同時にベッドに
座ることができた。
 あたしはルシフェルの首筋にキスができれば、と思ってルシフェルにもたれ掛かるようにして顔
を首筋に近づけるとルシフェルは首を少し傾けて、積極的だね、と言ってキスがしやすい姿勢をと
ってくれた。ルシフェルの首には金色の細い鎖が幾重にも重なってかけられていた。ネックレスと
いうよりも飾り、といった方が似合うアクセサリだった。あたしはルシフェルの首筋に唇を密着させ、
音がするほど吸った。そして胸元までを舐めた。
 ルシフェルは、胸は舐めないのか、と言ってあたしの肩を抱き寄せそのまま引き寄せるように、
仰向けに倒れ込むようにしてベッドに背中を沈めた。ルシフェルの冷たい体に抱かれるようにして
あたしはベッドに倒れ込むと、あたしを柔らかな胸がクッションのように受けとめた。そしてルシフェ
ルの長い髪があたしの肩にふわりとかかったのを、感じた。
 今まであたしは女の人とホテルに入ったことも、抱き合ったこともなかった。でも、いま自分はル
シフェルみたいな綺麗で格好良い人に抱かれてベッドに体を沈めている、と思うと心臓がはじけ
そうな勢いで動き、暖まった体が余計に熱を持ち動悸のような息苦しさを感じた。
「香菜。何がしたい、それとも何かされたい?」
ルシフェルはあたしを抱きながら問いかけるように囁いてきた。あたしはその言葉に、総てがはじ
け飛んでしまうような、そんな感覚を覚えた。あたしは次の瞬間、ルシフェルの腿と腿の間に顔を
挟まれるようにして、その股間に顔を埋めていた。そして何か肉の御馳走にむしゃぶりつくようにし
てルシフェルの大きなペニスを頬張っていた。
 ルシフェルは両腿であたしの頭をきつく締め上げて、手で押さえ込むようにすると、たまに歯を
立てられるんだ、それだけはやめてね、と言った。そしてあたしの髪を指先に絡めて遊び始めた。
 あたしは床の絨毯に膝を押し付けるようにしてルシフェルのペニスをしゃぶった。ルシフェルの
ペニスはあたしが舌で刺激するとすぐに硬くなり、大きさも倍以上に膨らんだ気がした。あたしの口
内や喉の奥でどんどん膨らみ、顎が外れてしまいそうな感覚すら覚えたけれど、頭を押さえつけら
れて吐き出すことさえできず、あたしは痺れる顎と唇で恐ろしいぐらいに大きくなったペニスを吸い
続けた。あたしの顎の下あたりから愛液の匂いが漂い始めていた。
「早くイかせないと、窒息するよ」
ルシフェルはあたしの頭の上でそう呟いて、慣れてないみたいだね、と笑った。
あたしはこのままだと本当に死んでしまう、と思って一生懸命舌を使ったりしてルシフェルのペニス
をしゃぶったけれど、ルシフェルは気持ち良さそうな声すら漏らさないし、全然感じている気配す
らなかった。
「ここで死なれても困るからね」
ルシフェルはそう呟くと、あたしの頭を腿で挟んだままベッドの縁から腰を浮かすと、そのまま閉じ
ていた腿を開きあたしを床に押し倒した。そして絨毯の上に中途半端な立て膝で仰向けになった
あたしの顔の真上を跨いだ。
「感じてないわけじゃないよ」
ルシフェルの呟きと同時に、あたしの顔のずっと上に見えるルシフェルの女性器から、ベチャベチ
ャと白濁して粘性が増した愛液が、糸を引いてあたしの顔に垂れてきた。あたしは垂れてきたルシ
フェルの愛液を舌の先をヘラのようにして絡め取って舐めると、それは腐ったパイナップルのよう
にあたしを甘く痺れさすようだった。
 ルシフェルはあたしの顔を跨いで立ったまま、勢い良く腰を落としてきた。あたしの鼻に痛みが
走ったかと思うと顔面はルシフェルの股間に覆われ、再び息ができない恐怖があたしを襲った。
「顔面騎乗なんて初めて?」
ルシフェルはあたしの鼻や口に女性器が密着するように腰をずらすと、腰をそのまま前後に動か
し始めた。グチャグチャと音がして鼻を突く匂いがする。
 ルシフェルは30秒以上あたしの口と鼻を塞ぐと、あたしの顔から顎にかけて女性器で擦りなが
ら腰をずらしていく、そしてあたしの胸より少し下あたりを跨ぐようにして動きを止めた。
「胸が小さくて、悩んでる? もしかして」
ルシフェルの突然の問いかけに、あたしはぼんやりしながら頷いた。するとルシフェルはあたしの
胸をいじりながら、胸なんて、あったところで邪魔なだけ、と言ってあたしの胸の谷間にペニスを挟
むと、あたしの僅かな胸の肉をめいっぱいに掴んでペニスをしごき始めた。あたしがその痛みに耐
えていると、充分に使えるよ、と笑った。
「要するに胸が小さくたって挟まれる方がでかければ、問題はない」
ルシフェルはあたしの顔を覗き込みながら、あたしの胸でペニスの摩擦を続けた。
 あたしは顔を覗き込むルシフェルに向かって精一杯舌を伸ばした。そのときのあたしはルシフェ
ルの煙草臭い口に、ペニスのようにして舌をくわえ込まれて吸ってもらいたい、そんな考えでいっ
ぱいだった。ルシフェルは、自分で舌なんか出すなよ、無理矢理ねじ込まれて引っ張り出された
いんだろ、と言ってあたしの舌を唇の間に挟み引っ張るようにして吸ってくれた。
あたしはルシフェルのザラザラした舌の先があたしの舌の先に触れるたびに下半身が疼いて、早
く入れられたい衝動に駆られた。
「終わり、終わり」
ルシフェルはそう呟いて、突然舌を吸い続けることもペニスの摩擦もやめた。あたしは何が起こっ
たかわからずにいた。
 そして次の瞬間ルシフェルが爪を立ててあたしの乳首を、両方いっぺんにつねあげて、そろそ
ろどうされたいか言いな、自分の口で、と言って更に耳許で、ゲームの時間は終わりなんだよ、と
囁いた。
 あたしは、ただ入れられたい、それだけだった。ルシフェルみたいな綺麗で格好良い人のペニ
スを入れられて犯されたい、単純なことだった。あたしはその思いを答えようとして口を動かしたけ
れど、何故か思うように口が動かなかった。動かないのは口だけじゃなくて体全身が重く泥のよう
だった。力が抜けたような感覚だけがあたしを支配している。
 ルシフェルはそんなあたしを見て、やっと効いてきたね、あまりにしぶといから時間稼ぎが必要
だったんだよ、と言って人差し指であたしの鼻を押し上げた。あたしは何が起こったかわからずに
口をパクパクさせるだけだった。
「ビールと一緒にしっかり飲んでくれたクスリのことだよ」
ルシフェルは可笑しそうに笑って、あたしの顔をおもちゃのように歪めたり頬を平手で叩いた。
 あたしはルシフェルが言った、ゲームの時間、の意味がその瞬間に分かった気がした。あたしと
のお遊びではなくて、あたしにクスリが効いてあたしの自由が奪われるまでの、時間稼ぎの時間が
終わった、と言う意味だった。
「死にはしないよ。ただ、いつ動けるようになるかは知らないけどね」
ルシフェルがそう言いながらあたしから離れ、ベッドサイドの煙草を手に取る。ルシフェルが手にし
た煙草はハイライトだった。半分が潰れた箱から取り出した煙草をくわえると、その傍らのオイルラ
イターを手に取り再びあたしの腹を跨いだ。
 ルシフェルはあたしの目の前でオイルライターに火を着けると、その火は長い柱となってあたし
の目の前に現れた。
「少しは怖がって見せなよ」
ルシフェルは手にしたライターであたしの前髪を焦がした。嗅いだことのない不快な匂いがあたし
の目や鼻を刺激する。チリチリと音をたてながら。
 ルシフェルはあたしの髪を焦がしたライターでそのまま煙草に火を着けると、何度かそれをふか
してあたしの腋と胸の中間の当たりに押し付けた。それは例えようのない熱さと痛みだった。あたし
の肉が焦げる。
「動けないし叫べないし、このまま殺されても文句は言えないね」
ルシフェルは力の抜けた人形みたいなあたしの脚を開きその間に割り込むようにして座ると、指で
無理矢理あたしの陰唇を開きそこへ自分のペニスをねじ込もうとした。
でもあたしのアソコは経験不足でそれほど大きなモノなんて入らないし、ルシフェルのような大きな
ペニスなんて入りっこない、と思った。それでもルシフェルは無理矢理にあたしの中に大きすぎる
ペニスをねじ込んでしまった。
 はじめあたしのアソコが裂けるんじゃないか、と思ったけど動かしながらルシフェルがペニスを突
き立てるとズブズブと入り込んでいき、あたしの下半身にどうしようもない激痛と疼きを与えながら
ルシフェルのペニスは飲み込まれていった。その後はもう、ルシフェルにダッチワイフのように犯さ
れるだけだった。
 ルシフェルは煙草をくわえたままの姿勢であたしを抱え込むようにして出し入れすると、たぶん
このまま続けたら壊れるかもね、と言ってあたしを突き続けた。
それがどれぐらい続いたかはわからないけど、とても長い時間あたしの下半身からは汚らしい音が
漏れ続け、最後にお腹が熱くなった。
 ルシフェルは精液とあたしの愛液で汚れ、糸を引くペニスを引き抜くとあたしの顔にそれを擦り
付けて、香菜の細い腕だったらちょうど入るよ、ひとりでするときはフィストがいい、と笑って先のち
びた煙草をあたしの胸で揉み消した。そのころにはもうあたしの意識は朦朧としていて、痛さも熱
さも辛さも感じずに、ただ異常なほどの倦怠感だけがそこにあった。
「相手が女だからって、知らない人についてきちゃダメだよ」
ルシフェルは口籠もるように呟いて、少し萎えたペニスを掴むとあたしの顔に黄色いオシッコを水
道のようにかけた。ビチャビチャと音を立ててあたしの顔を輝く飛沫が洗い流していく。
 あたしがホテルの低い天井を見つめたまま口を開けているとルシフェルは、そんなあたしに背を
向けてバスルームに向かおうとしていた。その背中にはまるで天使の翼のような、対を成す赤い翼
のタトゥが彫られていた。その赤はQフロントのビジョンに映し出された赤い天使の色だった。血よ
りも夕陽に焼かれた街よりも鮮やかな、目に痛い赤色だった。
 不覚にも、次の瞬間にあたしは意識を喪った。
 次にあたしが目を覚ましたとき、あたしは真っ暗な部屋に仰向けで天井を眺めたまま倒れてい
た。あたしに残されたものは、理解できない虚しさや倦怠感。そして体がバラバラになったような不
快さ、そして全身を支配する痛み。下腹部の疼痛。
 起きあがろうとすると胸がひどく痛んだ。朦朧とする意識でベッドに掴まり立ち上がるとシャワー
ルームだけを目指した。シャワールームへ向かう途中の、洗面台の鏡に映されたあたしの胸には
確かに刃物で刻まれたと思われる文字があった。
 吹き出した血が黒く干からびて固まってできているその文字は「MASATO」とあった。その文
字は、ルシフェルの本当の名であることが、そのときのあたしには素直に理解できた。

3

 壊れきった重い体を引きずるようにしてあたしは、そのホテルを抜け出した。
フロントで精算をしようとしたら、お代は頂いています。チェックアウトまで時間がありますよ、そう薄
い壁に仕切られたフロントのカウンタの中から聞こえてきた。
 あたしは朝まで意識を喪っていたのだった。あたしはフロントに何も答えず、ホテルを後にした。
ホテルの自動ドアがなんだか滑稽に感じた。まるであたしのようだ、と思った。
 軋む体を引きずるようにして静まりかえった円山町を抜け出し道玄坂を下ると、歩く人のまったく
いない、夜明けの渋谷の街のメランコリックな景色だけが、そこにあった。

Fin.